2016年4月14日

相続でよく起きる問題(生前の預金の引き出し・使途不明金)~相続の相談ならいわきの弁護士新妻弘道・磐城総合法律事務所へ~

久しぶりの相続関係のお話です。

相続の基本についてはこちらをご覧ください。また,相続の基礎知識に関するブログこちらをご覧ください。

 

相続関係のご相談でよくお聞きするのが,「被相続人の面倒を看ていた相続人の1名が,被相続人の生前,被相続人の預金をたくさん引き出していたことが判明した。どうしたらよいか?」というものです。

引き出しの理由や経緯によって,対処方法や法的な解決の仕方が様々ありますので,場合を分けて考えてみましょう。

 

① 被相続人に無断で(被相続人の承諾なく)預金を引き出していた場合

めったに起こらない最も悪質なケースといえますが,この場合には,無断引き出しをした相続人を被告として,不当利得返還請求訴訟(又は不法行為に基づく損害賠償請求訴訟)を提起することになります。

どちらの訴訟形態によるかは事案次第ですが,私は基本的に不当利得返還請求と構成して提訴しています。裁判所の説明(3-3の第2項参照)も不当利得返還請求となっています。立証すべき事項が若干異なること,遅延損害金の起算点が異なることなど多少の違いはあると思いますが,消滅時効の関係で不当利得返還請求のほうが有利であることから,基本的には不当利得返還請求をすればよいと思います。

請求金額は,「無断で引き出された金額×ご自身の法定相続分」となります。

 

② 被相続人から財産管理を任されて預金を引き出していた場合

実務的にはこのケースが多いと思いますが,この場合は,被相続人の委託の趣旨に適合する引き出し(支出)であれば,法律上の根拠のある正当な支出となり,不当利得返還請求などを行うことはできません。

委託の趣旨に含まれない支出をした場合には,その部分については不当利得となりますので,①と同様に不当利得返還請求(又は不法行為に基づく損害賠償請求)を行うことになります。

預金を引き出していた側(被相続人の面倒を看ていた側)からすれば,「ずっと面倒を看ていたのに何でこんな請求をされるのか!面倒を看ていなかった相続人の分際でこのような請求をするのはけしからん!」と憤慨される方が非常に多く,心情的にはとても理解できます。

しかし,法律上は,「法律上の原因に基づく支出であること=委託の趣旨に基づく支出であること」を立証するか,あるいは「自分が引き出したのではない,又は自分の利益には使っていない=自分が利得していないこと」を立証しない限り,返還せよという判決が下される可能性が高いと思われます。

財産管理を任されている相続人としては,相続開始後に上記のような返還請求を受けても困らないよう,①財産管理を任されたことを書面化しておく(財産管理委託契約書を作成し,どの範囲の財産をどの範囲の使途で使ってよいと管理を任されたのかを明確にしておく),②契約書の作成時に被相続人の判断能力に問題がなかったことを裏付ける資料を残しておく(契約書作成時の様子を録音・録画しておく,判断能力に関する医師の診断書を取っておく等),③日々の引き出しの使途を通帳に書いておく,④領収書を保管しておく,等の対策を取っておくことが肝心です。

「被相続人の面倒をずっと看てきたのに・・・」と嘆かれる方がいらっしゃいますが,残念ながら,上記訴訟においてそのような主張をしても有効な反論にはなりません。

「被相続人の面倒を看てきたこと」は民法上の寄与分(民法904条の2)として考慮されますが,寄与分の主張は,「遺産分割協議において面倒を看てきた相続人の相続分(取り分)を増加させる」という効果しか持ちません。

不当利得返還請求のような一般民事訴訟で寄与分を主張しても,残念ながら,相手の請求金額を減らすという法律効果は生じさせてくれないのです。この点は注意が必要です。

 

③ 被相続人から贈与を受けて引き出しをしていた場合

預金を贈与されていた場合であれば,遺産分割協議において特別受益(民法903条)として考慮してもらい,贈与を受けた相続人の相続分(取り分)を減らすことになります。

なお,この場合はそもそも,預金を引き出した相続人が贈与を受けたと立証すること自体が困難なケースが多いと思われます。親族間贈与の場合,書面を作らないケースが多くありますし,贈与税の申告もしていないというケースも多くあるため,客観的証拠によって贈与を立証することは困難なことが多いです。

仮に贈与を立証できない場合,①と同様に不当利得返還請求を受ければ,法定相続分は返還しなければならないということになるでしょう。

この記事を書いた人
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