いわき弁護士便り

人工知能(AI)と弁護士についての雑感~いわきの弁護士新妻弘道のブログ~

2016年7月13日

◎人工知能(AI)が弁護士に取って代わる?

最近,ちらほらと人工知能(AI)の話題が上っていますね。AIがクイズ番組でクイズ王に勝利したり,囲碁でプロ棋士に勝利したり,日進月歩で技術が進化しているようです。「今のうちにAI関連の企業の株を買っておいたら面白いのかな~。」などと,株式投資など一切やらないくせに思ったりしています。

そんな,弁護士業務とはあまり関わりのないように見える人工知能(AI)ですが,実は大いに関係がありまして,何と一説では,弁護士業務はいずれ人工知能(AI)に取って代わられるという話まで出ています。

実際,すでにアメリカの大手法律事務所では,人口知能(AI)を導入し,AI弁護士に破産法案件を担当させているとのことです。アメリカではもうそこまでAIの波が押し寄せているのかと正直驚きましたが,人工知能(AI)が質問の意味を認識・理解できるようになり,また質問を受けるほど自己学習して賢くなっていくようになっていることからすると,破産法のような分野で人工知能(AI)が人間に取って代わるということも,案外驚くべきことでもないのかもしれません。

「人工知能(AI)が弁護士業務を代替できるのか?」というテーマは,結局のところ,「弁護士(=法律家)が事件処理のために行っている思考過程を人工知能(AI)が代替処理することができるのか?」という問題に帰着すると思いますが,これに対しては色々と意見があるようです。

これに対しては,個人的には,当面(10年くらい?)は弁護士業務が取って代わられることはない,ただし,いずれは(たぶん自分が現役バリバリでやっているうちに),相当範囲の業務において,少なくとも人工知能(AI)との協働を余儀なくされるようになっているのではないか,と感じています。

 

◎弁護士の思考過程とは?

事件処理の際に弁護士(=法律家)が行う思考過程は,ごくごく大雑把に言うと,

生の事実経過を把握する。

②把握した生の事実経過を基に,事件解決のために適用されるであろう法律,裁判例で示された規範又は法律構成を選出する(ケースによっては,裁判例を敷衍したり参考にしたりして,自ら規範を定立する場合もあります)。

③適用されるであろうと考えた法律,規範又は法律構成を前提に,生の事実の中から,その判断のために重要な事実(有利に働く事実と不利に働く事実)をピックアップする。

④ピックアップした重要な事実を法律,規範又は法律構成に当てはめ,争点に対する結論を出す

⑤争点に対する結論を出した上で,最終的な法的効果(損害賠償請求ができるのか否か,契約が有効になるのか否か等)を導き出して事件を解決する,又は事件の解決策を提示する。

という作業になります。

 

◎人工知能(AI)が弁護士の思考過程を代替できるのか?

このうち,①や③の作業は,人工知能(AI)が代替することも不可能ではないかなと感じます。最も困難と思われるのは②と④の作業でして,個人的には,ここが弁護士としてのセンスというか力量の見せ所と考えています。

弁護士は,一見不利に思える案件であっても,紛争解決のため(=依頼者の望む結論を導き出すため),適用される法律,裁判例,あるいは法律構成を苦心して選出し(②),事実の当てはめにおいても,行動の経緯や動機までも考慮して,不利あるいは不自然に思える事実でも実はそれほど不自然ではない等と苦心して主張していく作業(④)を行っています。

このような作業は,人工知能(AI)に対し,単純に過去の事件類型や裁判例,それに対して適用された法律及び当てはめの実例等をインプットさせたり学習させたりしたからといって,逐一的確になしうるものではないように感じます。

事実経過の背後にある人間の行動原理・行動の動機・感情といった不確定的な要素(≒人間が必ずしも合理的な行動を取るわけではないこと)まで人工知能(AI)に学習させ理解させなければ,なかなか難しいのではないかなと感じます。

(※なお,事件解決のために参照すべき文献や裁判例の調査といった比較的単純な作業(事務職員やパラリーガル等のサポート係が行っている業務)については,現状の人工知能(AI)でももはや代替可能と思われます。)。

逆に,そのような不確定的な要素が介入しづらい分野(過払案件,交通事故,経済法分野,特許分野とか。あるいは会社法案件や企業間取引トラブルなど関係者が経済的に合理的な行動を取ることが一般的な案件)であれば,人工知能(AI)によって上記思考過程を代替することも不可能ではないように感じます

そうすると,むしろ大手法律事務所(ローファーム)が取り扱っているタイプの案件のほうが人工知能(AI)と親和性があり,反対に,地方都市のいわゆる町弁が取り扱っているような,離婚,相続など一見不合理とも思える行動が少なからず取られるタイプの案件には人工知能(AI)による処理に馴染まないのではないでしょうか。

ただ,科学技術の発展は本当に恐ろしいものがあり,いずれは,「人間の行動原理・動機・感情」といった部分でさえも,人工知能(AI)が膨大なパターンを作り出し,かつ自ら学習し,人工知能(AI)が人間の行動原理・動機・感情といった不確定要素・非合理的要素の部分でさえも完璧に理解してしまうという瞬間が来るかもしれません。

そのようなときには,人工知能(AI)が広く弁護士業務を代替する時代がやってくるのではないかと思います。

相談室の机には人工知能(AI)の顔が映るディスプレイとマイクがあり,相談中に人間弁士と人工知能(AI)弁護士が協議し,「私の方針について,人工知能(AI)も『問題ない』と回答してますので,その方針で行きましょう。」と説明する時代が来るかもしれません。また,企業の法務部担当者から,「弊社のAIに方針を確認したところこういった回答を受けましたので,この方針で処理をお願いします。」と依頼される時代が来るかもしれません。

◎人工知能(AI)を軽視すべきではない?

そのような時代が来た場合に我々人間弁護士の職域はどうなってしまうのかと不安になります。そのような時代においてもなお弁護士(専門職)としての価値を提供しようとなると,法的処理能力は完全に人工知能(AI)が人間を凌駕しているわけですから,「低価格」とか,「スピーディーさ」とか,「低姿勢であること」等の面で付加価値を生じさせるしかないように思います。

もちろん,人工知能(AI)が上記レベルにまで発達したとしても,しばらくは人間弁護士の職域は守られるとは思います。依頼者の話に対する「共感」であったり「相づち」であったりという人間ならではの反応を人工知能(AI)が行うようになるまでにはまだまだ時間がかかると思いますので,人間弁護士と人工知能(AI)弁護士が協働して事件処理に当たるという時代がしばらく続くと思います。

しかし,さらにさらに進化が進み,「共感すること」や「相槌を打つこと」まで人工知能(AI)が理解しきったときには,「人間弁護士は人工知能(AI)が決めた方針に従い,書面を作成したり裁判所や交渉の場に出頭したりするだけの事務処理を行う存在」となってしまう可能性も,あながち妄想とも言い切れないように思います。

弁護士と人工知能(AI)との「協働」関係の時代がいつ来るのか?「協働」関係がずっと続いていくのか?それとも人工知能(AI)が人間弁護士を凌駕してしまう時代が来るのか?

私が弁護士になった7年前にはおよそ考えられなかった疑問が出てくるようになったという事実のみをもってしても,「人工知能(AI)恐るべし。それを作ろうとしている人類はもっとお恐るべし。」という印象であり,決して一笑に付して軽視すべき問題ではないように思います。