2024年10月9日

M&Aの検討に関するポイントのご紹介

今回は、皆様の下にも一度は問合せやDMが来たことがあるであろうM&Aについてのご紹介となります。

皆様の気になるであろうポイントを踏まえ、今回は、

1.M&Aの一般的な流れ

2.事業価値の算定手法と譲渡価格の目安

3.M&A仲介手数料の目安

4.2024年8月公表の中小企業M&Aガイドライン改訂(第3版)

についてご紹介させていただきます。

出口戦略として売り手側でM&Aを検討される場合はもちろん、今後の成長戦略として買い手側で検討する場合も基礎知識として把握しておかれて損はないと思いますので、是非ご一読いただければ幸いです。

 

1.M&Aの一般的な流れ

概ね以下のような流れで進められます。

  • M&A仲介業者からのアプローチ、金融機関その他関係者からの業者紹介
  • 業者との間でアドバイザリー契約(M&Aの仲介依頼契約)を締結

※仲介業者が売り手側だけでなく買い手側の仲介もする場合(いわゆる両手取引の場合)もあり。ただし中小企業の場合、費用負担の面から買い手側は仲介業者を使わないケースも多い。

  • 企業概要書(会社の事業内容、財務情報等の詳細が記載された書面)の作成

※業者によりまちまちですが、概ね企業概要書の作成辺りから費用が発生することが多い。

  • 買受候補先の捜索ノンネームシート(会社名を伏せた概略書面)を利用して買受候補先を絞り込み
  • 買受候補先の決定後、当事者間でNDA(秘密保持契約)を締結
  • 企業概要書、決算書等を買受候補先に提示
  • トップ面談を実施して基本的条件を交渉
  • 基本合意契約を締結
  • DD(デューディリジェンス。対象企業の詳細調査)の実施

※零細中小企業の場合は実施されないか、ごく簡易的なDDで済まされることも多い。

(10)最終意向・最終条件を交渉し最終合意を締結

※DDが省略or簡易的に済まされた場合、表明保証条項や補償条項を多く設けて調整が図られる。

(11)クロージング(取引の実行・決済等)

(12)PMI(買い手側におけるM&A後の経営統合作業)

※買い手側における最重要作業といってよく、買い手側で関与する場合はこの部分の支援が相当重要。

※以上の流れの詳細・ポイントについては、こちらの契約ウォッチのページもご参照ください。

 

2. 事業価値評価の重要指標と買収価格の目安

【重要指標であるEBITDA】

M&Aにおいて事業価値評価をする上で最重要となる指標が、EBITDAというものになります。

複数の読み方がありますが、「イービットディーエー」、「イービッダー」等と読まれることが多いです。私は英語の発音が苦手なので、「イービットディーエー」と呼んでいます。

計算式は複数あり、厳密な計算式は結構複雑なのですが、実務上簡単に求めたいときは、

「営業利益+減価償却費」でおおよそ求めることが可能です。

 

EBITDAは、「利払前、税引前、償却前の利益」を言い、ごく大雑把に言うと「余計な支払関係をいったん考慮外にして、企業が一事業年度において稼ぎ出した本質的な利益・キャッシュフローを把握するための利益指標」となります。

金利、税金、減価償却(減価償却方法)はいずれも、国の金利水準や税制政策、各企業の採用する償却方法等といった企業の本来の実力とは無関係の事情に左右されるため、このような企業の本来の実力と無関係の数字をノイズとして扱い排除することで、企業(事業)の本質的利益を把握できるようになります。

【企業価値のチェックと買収上限額の設定】

適当な計算式によって算出されたEBITDAを基にして、買受候補先は「買収予定企業の価値≒儲かっている会社か?」をチェックすると共に、M&Aにかけられる費用(買収価格)の上限設定を行うことが通常です。

結構な幅がありますが、一般的には「買収費用の上限額=EBITDAの2倍~10倍程度」で設定され、中小企業の買収であれば3倍~5倍程度(Maxでも7倍程度か)が上限額に設定されることが多いのではないかと思います。

【実際の買収価格の目安】

究極的には需要と供給によって決まるため、将来性のある業界か・業界再編などでM&Aが活況を呈しているか等の事情によって目安は増減します。

それでもあえて現状での買収価格の目安を申し上げるとすれば、おおよそ以下のイメージになると思われます。

■一般論としての買収価格の目安:①時価純資産額+②営業利益2~5年分

※会社を買い取るため、①会社がその時点で有している時価評価での純資産(いわば会社のストック部分)と②会社の見通しを考慮した買収後の営業利益2~5年分(いわば会社のフロー部分)の合計額が買収価格の目安として機能します。

■実務上の目安:EBITDAの3~5倍程度か

※上記一般論の目安をそのまま用いると、健全経営である程度社歴がある中小企業の場合、配当をせずに内部留保が蓄積されている等の事情で特に時価純資産額が膨らんでしまい、買収価格に割高感が生じることが少なくありません。

※そのため、需給バランスにもよりますが、中小企業のM&Aの場合、EBITDAの3~5倍程度が買収価格の目安として機能することが多いように感じます。

M&Aが活況で需要が大きい業界・タイミングであれば5倍程度M&Aが下火になってきた業界・タイミングですと3倍程度かそれ以下、というような大雑把な目安を持っていただくと、基本的に大きく外れることはないのではないでしょうか。

※上記のとおり需給バランスでM&A価格は大きく変動しますので、経済的な損得勘定からすると、売り時・買い時を見誤らないことが極めて大切になります。

 

3.M&A仲介手数料の目安

こちらも業者の規模や想定される作業内容(特にDDを実施するか・どの程度実施するか)によって様々ではありますが、ざっくりとした感覚で以下の目安を持っていただくと良いと思います。

■最低でも200万円程度は要し、中小企業の場合は200万~500万円程度が必要となるのが一般的。

DDをある程度しっかり実施するとなると、1000万~2000万円程度は普通にかかる(大手M&A仲介業者の多くがこの辺りを最低報酬額に設定していることが多い。)

■成功報酬額はほとんどの仲介業者がレーマン方式(取引価格に応じて一定のパーセンテージを乗じて報酬額を決定する方法)を採用しているため、譲渡価格が大きくなるほど報酬額も増加する。

M&A仲介の報酬額・手数料についての法的規制や法的上限は現在ないため、着手金が発生するのか、どの段階から費用が発生するのか、報酬率がどの程度か等を事前によく確認する必要があります。

なお、レーマン方式による報酬率や最低報酬額の参考として、経産省の中小企業M&Aガイドライン改訂(第2版)概要資料の3ページ目をご参照ください。

 

4.中小企業M&Aガイドライン改訂(第3版)

2024年8月30日に中小企業M&Aガイドライン改訂(第3版)が公表されましたので簡単に内容を紹介させていただきます。

質の高い仲介業者が市場において選択されるよう、

1.手数料や各プロセスでの提供業務について詳細を説明する、

2.当者の保有資格、経験年数、成約実績等を説明する、

3.仲介業者の利益相反に関連する禁止事項の具体化(①買い手側から追加手数料を受け取って便宜を図る行為の禁止、②一方当事者から他方当事者に伝達を求められた事項を伝達しない等の行為の禁止、③一方当事者に有利又は不利な情報を秘匿する行為の禁止等)

といった重要な規律が新たに経産省から明示されました。

 

M&A仲介業者を検討するにあたって重要な注意点・ポイントが記載されておりますので、ぜひ概要資料だけでもご一読ください。

この記事を書いた人
福島県いわき市で頑張る中小企業の皆様への司法サービスの提供を中心に,企業法務に積極的に取り組んでおります。
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