2013年8月2日

いわきの弁護士が教える刑事裁判の基本~悪性格立証~

刑事裁判の基本的な問題に,「悪性格(あくせいかく)立証」というものがあります。事件との関係で最近よく触れる機会があるので,簡単にご説明します。

「悪性格立証」とは,被告人(TVだとよく「被告」と呼ばれますが,正確には「被告人」と言います。)が犯人であることを立証するために,被告人の悪い性格や日頃の悪い行い,特に同種前科なんかを証拠として提出し,「今回も被告人が犯人です」と立証することをいいます。

つまり,

①「被告人は,日頃からこんな悪いことをしてます。以前にも同じような前科があります。」という事実を立証して,

                          ↓

②「被告人は,犯罪を行うような悪い性格を持っている」と裁判官に推認させ,

                          ↓

③「だから,今回も被告人の犯行である」とさらに裁判官に推認させる

という立証方法です。

こういった立証方法は,日本の刑事訴訟法上,原則として許されません。

なぜかというと,裁判官に不当な偏見を与えてしまい,事実認定を誤らせて冤罪を発生させてしまう危険が高いからです。

例外的に許されるのは,①犯人であることが他の証拠から認められるときに故意など内心の事情を認定する場合,②犯罪行為に顕著な特徴がある場合に犯人であることを認定する場合,などのケースに限られています。こういったケースであれば,事実認定を誤る危険は少ないと考えられているのです。

この理論を徹底すると,本来,裁判官は悪性格に関する証拠の中身を見ることさえできなくなるはずです(見た時点で偏見が与えられてしまうからです)。

しかし実際のところ,裁判官としては証拠の中身を見てみないと,その証拠が悪性格立証につながるものとして証拠から排除すべきなのか,そこまでは至らないとして証拠採用してよいのかを判断することができません。

そのため,実務上は,「証拠の採否を決定するため」といった理由で証拠の中身に触れるケースが多いと思われます。中身を見た結果,悪性格立証につながると判断されれば証拠から排除されます。

ただ,裁判官も人間ですので,悪性格に関する証拠を見てしまうと,それだけで無意識のうちに「被告人がやったのではないか」というバイアスがかかってしまう危険があります。

そのため,個人的には,公判で機会があるたびに,「悪性格立証とならないよう注意してください,証拠の使い方に注意してください」と注意喚起するようにしています。裁判官ももちろん注意されているでしょうが,偏見というのは一度生じると拭い去るのが不可能ですので,弁護士のほうからしつこく注意喚起し,けん制しています。

裁判員裁判が始まって久しいですが,「偏見・予断が生じないか」という観点では,裁判前の報道にも注意する必要があります。ワイドショー等で下手に情報が入ってしまうと正確な判断ができなくなる可能性がありますので,このブログをご覧になったいわき市民の皆様は,ぜひ注意していただきたいですね。

この記事を書いた人
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