2020年5月11日

新型コロナウイルス倒産防止,事業再生のために~資金繰り表の作成手順など~

新型コロナウイルス感染症の影響を受け,資金繰りに窮し今後の事業継続に多大な不安を感じておられる事業者は,いわき市内にも相当数いらっしゃると思われます。

「業績好調だったにもかかわらずコロナ禍によって急激に業績が悪化した」,「コロナ禍以前からギリギリの赤字経営を続けてきたが,コロナ禍によって経営が一層厳しくなり廃業も検討せざるを得なくなった」など状況は千差万別だと思いますが,新型コロナウイルス倒産を防ぎ,事業を再生し継続させていくためにどのような対応を取って行けばよいかをご紹介いたします。

大枠としては以下の3点に集約されますが,(1)資金流入の確保,(2)支出(資金流出)の抑制というポイントについては,公的支援メニューが多数用意されておりそちらをご参照いただければよいと思います。

本ブログでは,経営者も弁護士も意外と馴染みが薄い,(3)資金繰り表の作成を中心に解説いたします。

 

 

【★コロナ倒産防止・事業再生のための対応3つのポイント】

 

 

(1) 資金流入策の確保(新規融資,給付金の申請など)

→休業,業務時間短縮,消費者の外出自粛要請などによって収入が断然又は減少しているわけですから,事業継続のためには,新たな資金流入策を講じなければなりません。

資金流入の確保策としては,経産省のHPに公的制度が網羅的に記載されておりますので,前年同月比の売上高の減少割合などを基準にして,新型コロナ特別貸付,セーフティーネット貸付など適宜の手段を講じる必要があります。持続化給付金も,中小企業の平均的な事業規模からすると大変少額ではありますが,要件に該当するのであれば直ちに申請すべきです。

まずは取引先メインバンクに相談されるのがよいと存じます。

 

 

(2) 支出(資金流出)の抑制(公租公課などの支払猶予,雇用調整助成金の活用など)

コロナ以前と同程度の収入は当面期待できないわけですから,可能な限り支出を抑制することも事業継続のために当然必要になります。

役員報酬の一時的な減額のほか,公的支援メニューとして,税金・社会保険料などの公租公課の支払猶予,水道料金・電話代などの支払猶予,雇用調整助成金の活用による休業手当の負担軽減など,利用可能な公的支援メニューをフル活用して,支出(資金流出)を最低限に止める努力が必要になります。

具体的な支出(資金流出)の抑制策については,経産省の支援策パンフレット(2020年5月8日更新版)をご参照ください。このパンフレットは1週間程度で頻繁に更新されておりますので,必ず経産省HPにて最新版をご確認ください。

 

 

(3) 資金繰り表の作成(約定資金繰り表と改訂資金繰り表の作成)

「資金繰りがいつまで持つか(いつまでに新規融資等を受けなければならないか)」,「資金ショートするのは(Xデーは)いつの見込みか」を確認するため,上記(1)・(2)と並行して(できれば先行して),資金繰り表を作成する必要があります。

※通常の事業再生事案ですと,金融機関との返済猶予交渉などに入る前の段階で最初に資金繰り表を作成しますが,新型コロナウイルス対応の場合,資金繰りの緊急性が高い事案が多いため,並行処理でもやむを得ないと存じます。

作成すべき資金繰り表としては,①「現状のまま支出を続けていくとどうなるのか」を示す約定資金繰り表と,②「事業再生のために返済猶予や支出抑制策などを講じるとどうなるのか(事業継続のためにどの債務の返済猶予・支出抑制をする必要があるのか)」を示す改訂資金繰り表の2種類があります。

 

〔① 約定資金繰り表の作成手順〕

 

→分かりやすいものとして,日本公認会計士協会近畿会HPで公開されている改訂資金繰り表(日本公認会計士協会近畿会ver)を利用することが一般的です。

大きく,月次表と日繰り表の2種類のデータがありますが,当事務所の場合ですと,大変でも今後3~4か月程度先までの日繰り表を作成するよう依頼することが多いです。

月次表ですと,1期(1か月)中の合計収支の見込みが分かるだけであり,期末(月末)における資金繰りの過不足がどのようになるかまでは分かるものの,期中(月中)のどの日にちに資金ショートに陥る見込みかまでは分かりませんそのため,「急がば回れ」の精神で,大変でも日繰り表の作成をお願いしています。

日繰り表を作成したほうが,結果として企業のキャッシュフロー(≒資金の流出入のイメージ)を経営者が正確に把握でき,事業改善策の検討時に役立つことも少なくないので,日繰り表から作成していくことが望ましいでしょう。最低でも,「資金ショートの可能性がある月とその前の月」くらいについては日繰り表を作成すべきでしょう。

 

約定資金繰り表の作成手順1:日繰り表への収入の入力

掛売上については,取引先ごとに締日・入金日が異なると思いますので,売掛帳などを参考にして入金予定日ごとの正確な金額を入力します。1~2か月先程度であれば金額が確定していることが多いので入力しやすいと思いますが,3か月以上先になると金額(取引量)が未確定の場合も多くありますので,その場合は直近の取引量の減少幅や今後のコロナ影響(売上)の回復見込み等を考慮しながら,保守的な予測に従って入力せざるを得ないでしょう。

受取手形の入金については,基本的に期日入金されるものとして当該日付に金額を入力すればよいですが,資金繰りの関係で支払期日前に銀行や手形割引業者に手形割引をせざるを得ないようであれば,手形割引による入金日(入金予定日)に,「手形割引」欄に当該割引額を入力します。

現金売上については,入金日が確定しているものは当該日付で入力しますが,リテール業者(小売業者)などの場合,どの日付でいくら計上すればよいか分からないことも多いと思われます。その場合の入力方法としては,事業実態に合わせて,①店舗営業日ごとに均等割り付け(休日,週末を多めに割り付け),②5日ごと(6回に分割)又は1週間ごと(4回に分割)して週末(金曜日,土曜日等)に割り付け,など様々考えられます。

 

約定資金繰り表の作成手順2:日繰り表への支出の入力

基本的には収入の入力と同じイメージで行います。実際の支出予定日における支出金額を順次入力していきます。

買掛金支払については,仕入れ先ごとの締日・支払日を確認した上で,支払予定日ごとに正確な金額を入力します。3か月以上先で買掛金額(仕入量)が未確定の場合は,掛売上の場合同様,直近の取引量の減少幅や今後のコロナ影響(売上)の回復見込み等を考慮しながら,保守的な予測に従って入力します。

給料,家賃(賃料),水道光熱費などの固定的支出については,支払日又は口座引落日における見込み金額を入力します。

借入金支払については,事業再生のために金融機関に元金返済の猶予(利息支払は継続)を求めることが多いため,元金返済と利息返済を分けて入力しておく必要があります。

また,事業再生を弁護士に依頼する場合は,弁護士費用の支出も忘れずに計上してください。事業再生における弁護士費用は高額になることが多く,資金繰り計画に大きく影響します。そのほか,不採算店舗の閉鎖や人員削減などの各種リストラを予定している場合は,当該リストラコストも忘れずに計上する必要があります。

 

約定資金繰り表の作成手順3:日繰り表の内容を月次表へ反映

以上の手順でまず日繰り表を完成させ,日繰り表上の各項目の合計金額を月次表に反映させます。ここは単なる転記になりますので,日繰り表に間違いがなければ簡単に処理できるはずです。

「月次詳細版」という詳細な月次表データに入力することが本来は望ましいですが,緊急対応のためスピードを重視してシンプルな「月次資金繰表」に反映させるだけでも問題ないと思われます。

 

以上の手順で約定資金繰り表を作成すると,「現状のまま(=約定のまま)支払を継続していったら資金繰りがどうなるか,いつの時点で資金ショートになる(Xデーが到来する)見込みか」が大筋明らかになります。

 

〔② 改訂資金繰り表の作成手順〕

 

→作成した約定資金繰り表データをコピペして作成します。改訂資金繰り表は,「現状のまま(=約定のまま)の支払だと資金ショートしてしまうので,一部の支払を停止(返済猶予)することで資金ショートを回避できる」という道筋を示す資金繰り表になります。

 

改訂資金繰り表の作成手順1:収入の入力は原則として約定資金繰り表のとおりでOK

上記のとおり,改訂資金繰り表は支出を調整する方法で作成するため,収入欄の入力は原則として約定資金繰り表と同一で問題ございません。

ただし,今回のコロナ禍のようなケースの場合,雇用調整助成金や各種給付金といった特別の収入がありえますので,それら特別収入は忘れずに反映させる必要があります(※約定資金繰り表を作成する時点ですでに入金が確定しているようであれば,当然,約定資金繰り表に反映させても構いません。)。そのほか,遊休資産(特に高級車など)がある場合には換価して改訂資金繰り表の収入欄に反映させる必要があります。

 

改訂資金繰り表の作成手順2:支出欄を修正する(信用不安を生じさせない取引先から返済猶予(支払を停止))

信用不安を生じさせない取引先から,順次,返済を猶予(支払を停止)してもらいます。改訂資金繰り表上では,該当する支出項目を「0円」に変更します。

個別事情により順番は多少前後しますが,一般的な返済猶予の順番としては,まずは①金融機関への元金返済の猶予を求め,その後に,

②金融機関への利息返済の猶予(ただし預金ロックを招く危険もあり難易度高め),

③公租公課の支払猶予,

④仕入先への買掛金の返済猶予(信用不安を引き起こしかねないため,仕入金額が大きく,かつ信頼関係があるケースに限るほうが無難),

⑤従業員給料の支払猶予(役員報酬や幹部従業員の給料は支払を遅らせることもある),

という順序になります。ただ,今回の新型コロナウイルスのケースですと,前述のとおり公的支援メニューが多数存在しておりますので,少なくとも③公租公課の支払猶予は先行させてよいでしょう。⑤従業員給与についても,支払猶予とは違いますが,会社で60%の休業手当又はそれ以上の手当を支払い,雇用調整助成金を活用することで負担を実質0円にすることも可能です。

 

以上の手順で改訂資金繰り表を作成します。実際には,金融機関その他取引先への返済猶予の交渉をしながら,改訂資金繰り表を何パターンか作成することになると思います。

一般的には金融機関が利息返済まで猶予してくれるケースは稀ですが,今回の新型コロナウイルスの影響という特殊なケースでは,金融庁から金融機関に対し,金利を含めた返済猶予などの条件変更に迅速・柔軟に対応するよう要請されているところです。そのため,あきらめずに事業再生の可能性,売上回復の可能性を粘り強く交渉していくことが重要です。

ポスト・コロナでは,生活様式の変更に止まらず,工場の国内回帰,米中両国の国内経済状況の悪化等によるゼロ極時代への突入など,過去に例を見ない大転換が予想されております。暗い話題も多いですが,「ピンチこそチャンス(新たな産業・ビジネススタイル創出のチャンス)」と捉え,いわき市内の中小企業の皆様が力強くコロナリスクを乗り越えていけるようお手伝いさせていただきます。

 

事業再生に関する相談がございましたら,ぜひお気軽に当事務所へご相談ください。

この記事を書いた人
福島県いわき市で頑張る中小企業の皆様への司法サービスの提供を中心に,企業法務に積極的に取り組んでおります。
地元いわき出身の弁護士として,「いわき市の発展のために尽力しておられる地元企業・地元法人の力になる!」という使命を掲げて活動しておりますので,ぜひお気軽にお問い合わせください。
また,相続・交通事故といった個人事件にも幅広く対応しております。
法律問題にお悩みを抱えている方は,お気軽にご相談ください。