令和3年4月28日公布「所有者不明土地の解消に向けた民法等の改正」についてご紹介いたします。
相続発生時に相続登記がされない・遺産分割がされない等の理由により所有者が不明となっている土地
(登記名義が死者のままとなっている土地)が多数ある現状を打破しようと、民法及び不動産登記法の
改正や新たな法律の制定がなされました。
改正の大きな内容は、以下の3点になります。
1.相続登記・住所変更登記の申請の義務化(不動産登記法の改正)
2.相続土地の国庫帰属制度の新設(相続土地国庫帰属法の制定)
3.利用の円滑化を図るため、財産管理制度、共有制度、相続制度、相隣関係規定の見直し(民法の改正)
施行は公布後2年以内(登記申請の義務化のみ3年or5年以内)とされておりますので、2023年4月
28日までに施行されることになります。
以上の3点について、本メールでは概要のみご紹介させていただきますが、詳細をお知りになりたい方は
以下の法務省のウェブサイトもご参照いただければ幸いです。
法務省:所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続
土地国庫帰属法)
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html
1.相続登記・住所変更登記の申請の義務化(不動産登記法の改正)
登記が適切になされないことによって、実際の所有者が分からず所有者不明土地が発生する事態を予防する
ため、相続登記・住所変更登記の申請が義務化されます。
相続登記については、相続人が不動産の取得を知った日から3年以内に、住所変更登記については、住所
変更日から2年以内に、それぞれ登記申請をすることが義務付けられます。正当な理由のない申請漏れに
は過料(10万円以下)の罰則が科されますのでご注意ください。
なお、経過措置により、施行日時点で既に相続登記未了になっている不動産にも義務化が適用されるとの
ことですので、もし相続登記未了(又は住所変更登記未了)の物件がございましたら、今のうちに登記
申請をしていただくことが無難です。
2.相続土地の国庫帰属制度の新設(相続土地国庫帰属法の制定)
相続や遺贈(相続人に対する遺贈に限る)によって望まない土地を取得した所有者の負担が増大し、土地
の管理が不全化している(土地が放置されている)ケースが多いという現状に鑑み、一定の要件の下で、
相続等によって取得した土地を手放して国庫に帰属させることが可能な制度が新設されます。
ただし要件は相当厳しく設定されておりますので、実際の活用事例はかなり限定されると推測されます。
「所有者不明土地の発生予防」という要請と、「管理コストが国に転嫁されるおそれ」・「『どうせ最後
は国庫に帰属するから』と土地管理をおろそかにするモラルハザードのおそれ」とのバランスを取るため、
要件を厳しく絞っておりますので、運用も相当謙抑的になされると思われます。
【国庫帰属のための要件】
①通常の管理又は処分をするにあたり過分の費用又は労力を要しないこと
建物や工作物がある土地、
土壌汚染や埋設物がある土地、
崖がある土地、
権利関係に争いがある土地、
担保権等が設定されている土地、
通路など他人によって使用されている土地、
少なくともこれらの土地は、上記①の要件を満たさないとされておりますので、この要件の時点で相当
多くの土地が除外されそうです。
②審査手数料のほか、土地の性質に応じ管理に要する10年分の標準的な管理費用相当額を納付すること
上記の管理コストの転嫁・モラルハザード防止のための要件になります。現在の国有地の10年分の標
準的管理費用は、原野で約20万円、市街地の宅地(200㎡)で約80万円とされておりますので、
これらが一応の目安になると思われます。
上記のとおり、少なくとも当初は相当厳しく運用がなされる(国庫帰属が認められる土地は少ない)
と思われますので、あまり過度な期待はしないほうが良いと存じます。
5年経過時点で制度の見直しがなされるとのことですので、ひとまず運用してみて、国の管理コスト
が少ない、あるいは土地の有効活用ができてコストパフォーマンスが高いということになれば、相続
以外の原因による土地取得の場合にも拡大するとか、国以外の自治体や法人も土地を取得できるよう
にするとか、使い勝手の良い制度に磨き上げられる可能性がありますので、今後の伸びしろに期待
したい制度という印象です。
3.利用の円滑化を図るため、財産管理制度、共有制度、相続制度、相隣関係規定の見直し
(民法の改正)
所有者不明土地の利用を円滑に行えるよう、共有関係、相隣関係、相続関係といった関係する民法
の規定が大きく改正されます。
改正内容は細かくかつ多岐にわたるため、主な改正内容のみご紹介します。
(1)相隣関係の改正
①境界壁の設置等、境界の測量、伸びた枝の切取りといった目的での隣地使用権の創設
(新民法209条)
現行民法209条は、隣地所有者に隣地の使用を請求することができると定められており、隣地所有
者の承諾又は承諾に代わる判決を得なければ隣地を使用できないとされております。
これを改正し、新民法209条は、隣地使用権+事前or事後の通知で直ちに隣地を使用することが
できるようになります。
ただし、権利が強化された代わり、新民法209条では、境界壁の設置等、境界の測量等、伸びた
枝の切取りといった3つの使用目的が明記されるようになり、これは現在の解釈では限定列挙(例外
を認めない限定的な列挙)と考えられております。「権利が強化された代わりに、使えるケースには
限定をかける」という立法趣旨になります。
②継続的給付(水道・ガス・電気等のライフライン)を受けるための設備設置権・設備使用権の新設
(新民法213条の2、3)
他の土地に囲まれている等の事情でライフラインの供給が受けられない土地の所有者は、ライフ
ラインの供給を受けるため、他の土地の設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することが
できるようになります。こちらも基本的な権利の枠組みは、設置権・使用権+事前or事後の通知
になります。
ただし、特に非のない他人の土地や設備を利用することになるため、損害の最も少ない方法を
選択しなければならない、他人に生じる損害に対する償金を支払わなければならないといった制約
があります。
(2)共有関係の改正
①管理者制度の創設(新民法252条の2)
共有物の管理が適切になされるよう、共有者の過半数の決定で管理者を設置することが可能に
なります。なお、管理者の設置に反対する共有者は、共有物の分割を請求できます。
②裁判所を通じた共有物の変更・管理の決定手続の創設(新民法251条、252条)
現行民法では、共有物の変更行為を行う場合、全共有者の同意が必要とされておりますが、これ
では所在不明共有者がいる場合に変更行為が一切できないとなってしまい不都合です。
そこで、新民法は、所在不明共有者がいる場合、その他の共有者の同意を得て、共有物を変更する
こと裁判所に請求できるようにしております。
また、共有物の管理行為を行う場合、現行民法では共有者の持分価格の過半数で行えると規定して
おりますが、所在不明共有者がいる場合は勿論、賛否を明らかにしない共有者がいる場合も、過半
数の同意が得られず管理を行えないという不都合が生じてしまいます。
そこで、新民法は、管理行為の場合には、賛否を明らかにしない共有者がいる場合にも、その他の
共有者の持分価格の過半数により、共有物の管理をすることを裁判所に請求できるとしております。
③所在不明共有者の持分の取得・譲渡制度の創設(新民法262条の2)
現行民法では、所在不明共有者の持分を取得するためには、当該不明共有者を相手方として裁判
所に共有物分割請求をしなければなりませんが、書類の送達の問題等により非常に手間と時間が
かかってしまいます。
そのため、新民法では、不動産の共有者に限り、裁判分割の方法によらず(所在不明共有者を
相手方とすることなく)、当該所在不明共有者の持分を取得することを裁判所に請求できるよう
になります。
なお、所在不明共有者は、持分を取得した共有者に対し、時価相当額の支払を請求できるとされ
ており、持分を取得する共有者は、当該時価相当額を事前に供託しなければなりません。
(3)相続関係の改正
①相続開始から10年を経過したときの遺産分割上の権利制限の創設(法定相続分による遺産分割)
遺産分割は本来、各相続人の法定相続分を前提として、寄与分(遺産維持・増殖への貢献)や
特別受益(生前の遺産の前受け)を考慮して具体的相続分を算定し、この具体的相続分によって
遺産分割がなされます。
しかし、相続開始から長期間が経過すると、寄与分や特別受益に関する証拠が散逸し立証が困難
となり、それにも関わらずなお寄与分や特別受益の主張を認めると、紛争が泥沼化し共有状態の
解消が困難になるという不都合があります。
そこで新民法は、相続開始から10年を経過した場合には、もはや具体的相続分による遺産
分割を求めることはできず、法定相続分による画一的な遺産分割しか行えないとしております。
②遺産である共有不動産について所在不明の共同相続人がいる場合の持分の取得制度等の創設
共有関係の改正同様、新民法は、相続で所在不明の共同相続人が生じているケースでも、他の
共同相続人が、当該所在不明の共同相続人の持分を取得することを裁判所に請求できるとして
おります。
また、他の相続人が持分を取得するだけでなく、第三者に共有不動産を譲渡するための制度も
創設されます。具体的には、所在不明の共同相続人以外の全ての共有者が持分の全部を譲渡する
ことを停止条件として、当該所在不明の共同相続人の持分を譲渡する権利を裁判所が付与すると
いう制度も創設されます。
改正内容が多岐にわたるため若干分かりにくい内容もあるかと存じますが、所有者不明土地の
解消のために活用できる様々なメニューが創設されますので、今後はこれらの新メニューを
活用して対応していくことになります。
実務では、数十人いる相続人のうち1~2名だけが行方不明で連絡がつかないため遺産分割が
進められないという事案に多く出くわしますので、特に、所在不明共有者の持分取得を裁判所
に請求できる制度をぜひ積極的に活用していきたいと考えております。
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磐城総合法律事務所 代表弁護士:新妻弘道