2020年7月8日

2020年7月10日から,自筆証書遺言書保管制度の運用が開始されます(磐城総合法律事務所)

2020年7月10日から,自筆証書遺言書保管制度の運用が全国の法務局で開始されます。

読んで字のごとく,自筆証書遺言書を法務局で保管してくれる制度になり,これまでの自筆証書遺言書で問題となっていた,①そもそも発見されない,②相続人等による改ざんの危険あり,といったリスクを排除することが可能となります。

これまでは,自宅の金庫やら貸金庫やら,あるいは机や仏壇の奥などに自筆証書遺言書が保管され,相続開始後に発見された場合,大慌てで裁判所に検認手続を申し立て,立ち会いのため同席した相続人と気まずい雰囲気になる,ということが少なからずありました。

自筆証書遺言書保管制度を利用して法務局で保管しておいてもらえば,①検認手続不要で相続手続を進めることが可能となり,また,②相続人の1人が遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付を受ける等すれば,他の相続人に対して遺言者が保管されていることが通知されますので,自筆証書遺言書の存在に気付かないという事態も防ぐことができます。

自筆証書遺言書保管制度パンフレットもご参照ください。

より確実に遺言書を残す方法として,従来からの①公証役場で公正証書遺言を作成するという方法に加え,②自筆証書遺言書を法務局で保管してもらうという方法も利用することができるようになりましたので,今後はそれぞれのメリットと手続上の手間・コストを考えて方法を選択することになります。

弁護士から相談者へのアドバイスとしては,今後の遺言書の調査方法として,①だけでなく②の点(法務局に自筆証書遺言書が保管されていないか)も調査してくださいと伝えることを忘れないようにしないといけませんね。

 

大まかにいうと,以下のような基準で遺言書の方式を選択することになると思われます。

1.公正証書遺言を利用すべきケース

⑴ 遺言事項が多岐にわたる場合(自書部分が多岐にわたる場合)

※自筆証書遺言書の作成方式自体は従前から基本的に変更がないため,財産目録以外は全て自書しなければなりません。そのため,遺言事項が多岐にわたる場合は公正証書遺言で作成したほうが楽でしょう。

⑵ 弁護士,司法書士など専門家に作成を依頼する場合

※公正証書遺言の場合,法的知識等を踏まえて遺言書の文言が厳密に作成され,手直しも結構なされます。そのため,本人限りだと,出来上がった文言の微妙な違いによるメリット・デメリット(法的にどのような効果が生じるのか,法的効果には違いが生じないのか等)を理解しきれない可能性があります。専門家が関与している場合は,そういった微妙な文言の違いによる法的効果の違い等もしっかり把握できますので,初めから公正証書遺言で作成して問題ないと思います。

 

2.自筆証書遺言書+保管制度を利用すべきケース

⑴ シンプルな遺言書でよいものの,相続人による破棄・改ざんが予想される場合

※自書でも問題ない分量のシンプルな遺言書でよいが,相続後に相続人が遺言書を破棄したり改ざんしたりする危険があり得る場合は,保管制度を利用して法務局に保管しておいてもらうことが良いでしょう。他の相続人への通知制度もあるため活用を積極的に検討すべきだと思います。

なお,保管制度を利用した場合は法務局から保管証(保管番号付)が発行されますので,推定相続人に対し,保管証写しを交付する,または保管番号を伝えておくと,より一層万全になります。

⑵ 手数料等の費用をなるべく抑えたい場合

公正証書遺言の場合,作成手数料が法律で決められており,遺産額に応じて相応の手数料が発生します。最低5000円,遺産1億円以上3億円以下だと4万3000円~9万5000円,遺産10円以上だと24万9000円~となっており,案外高額です。

遺産が数億円ある方にとっては問題のない手数料額だと思いますが,「そんな難しい遺言じゃないんだからわざわざ高い手数料を払いたくない!」という方は,自筆証書遺言書+保管制度を利用することを検討すべきでしょう。

※参考→公正証書遺言の手数料(ラストのQをご参照ください。)

 

自筆証書遺言書保管制度も活用して,「相続」が「争族」とならないよう万全の準備をしてください。

この記事を書いた人
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