最近,顧問先企業様から,内部通報の外部窓口として当事務所を設定できないかというご相談をお受けしまして,久しぶりに内部通報制度(公益通報制度)について勉強しました。
「そんな制度もあったなぁ」と大昔に勉強した内部通報制度ですが,設置のメリット等を簡単に紹介したいと思います。
1.内部通報制度(公益通報制度)とは?
内部通報制度とは,勤務先・所属先において何らかの問題が生じている場合に,役員や従業員等が,勤務先・所属先に設置された窓口(①社内窓口や②外部窓口)に対して通報できる制度のことを言います。企業が独自に設けた窓口に対して通報するものになります。
これに対して公益通報制度とは,公益通報者保護法という法律に定められた特定の通報に関する体制のことを指します。公益通報に該当する特定の通報は公益通報者保護法で規定されており,ざっくり言うと,労働者等が,特定の法律違反事実(通報対象事実)について通報することを指します。
2つの言葉が混同されているケースもありますが,公益通報制度は,通報主体と通報対象事実が限定されている点が大きく異なります。大まかに言うと,「内部通報の一部に公益通報が含まれている」というイメージになります。
なお,公益通報制度や内部通報制度の詳細は,消費者庁の
公益通報ハンドブックや平成28年12月9日改正ガイドライン,説明会用資料等をご確認ください。
2.内部通報の体制を整えることは事業者にとっても非常に有益!
内部通報に関して企業が適切な体制整備をすることは,中小企業の評価・価値を高める上で重要な意味を持ちます。
【内部通報の体制整備による数々のメリット】
①企業のコンプライアンス(法令遵守)意識を高め,コンプライアンス経営の強化につながることはもちろんのことですが,
②コンプライアンス経営が徹底されていることを外部にアピールすることで,取引先,顧客,就職希望者から高い評価を受けることができます。
③また,企業側としても,社内の違法行為・不適切行為が早期に発見され是正することができる,
④社内不正が突然外部(マスコミや監督官庁等)に通報されてしまうことによる風評被害・信用失墜等のリスクを軽減できる,
⑤社内不正を自ら公表・是正することにより信頼失墜を最小限に抑えることができる(又は信頼回復につながる),
⑥通報窓口が充実していることにより従業員等による違法行為への抑止力となる,
といった多くのメリットがあります。
内部通報制度は,会社にとってデメリットの大きいものではなく,むしろ,社内不正が外部に公表される前に内部の自浄作用を発揮できる・従業員等による違法行為への抑止力になるといった多くのメリットがある制度であると理解すべきです。
このようなメリットがあることから,いわき市の企業の皆様もぜひ内部通報窓口を設置していただければ幸いです。特に後述のとおり,通報窓口としての実効性を確保するため,社内窓口以外の外部窓口を設置することをぜひご検討ください。
3.内部通報窓口を設置・運用するに当たっての注意点
役員や従業員等の企業関係者が会社の不祥事・不正その他の問題を発見したときに,躊躇なく通報できる窓口を設置し,かつ実効性を維持しながら運用していくことが内部通報制度の肝となります。
内部通報制度を十分機能させるための主なポイントとして,以下の点が挙げられます。いずれも,「箱は作ったが機能しない」という事態にならないための注意点となります。
⑴ 通報に関する秘密保護を徹底すること
通報者が容易に特定されたり,通報に関連した秘密が簡単に暴露されたりするようであれば,通報を躊躇してしまうことは当然です。情報共有を最小限に止める,通報者の特定につながりうる情報は開示しないといった対策の他,通報者を探索してはならないことを明確にし,かつ関係者に周知徹底させることも必要となります。
⑵ 匿名による通報も(例外的に)受理できる体制にすること
通報できる主体を一定の範囲に限定するという制度設計もあるため,通報は原則として,氏名や所属を明らかにして行ってもらうことが望ましいです。しかし他方,匿名の通報が多いという実態もあることから,企業不祥事など重大事案に関わるものについては例外的に匿名通報を受け付けるという体制にすることも必要です。
⑶ 会社や経営幹部から独立した通報ルートを確立すること
通報ルートとしては,①社内窓口と②社外窓口(外部窓口)の2種類を設置することが望ましいです。
そのうち,①社内窓口については,一般的には総務部や法務部,人事部等に設置されることが多いと思われますが,通報者としては,真摯に対応してくれるのか・上司に知られてしまうのではないかといった不安を抱くおそれもあります。
そこで,①社内窓口を設置する場合でも,社外取締役や監査役への直接の通報ルートを別に設ける等,経営幹部から独立性を有する窓口を設置することをご検討ください。
また,躊躇なく通報が可能となるよう,②社外窓口(外部窓口)として,法律事務所(弁護士)又は専門の民間会社を設置することが望ましいとされております。コスト面で会社単独での設置が難しい場合には,同業の複数の事業者で共通の外部窓口を設置することも選択肢の1つとなりますので,ぜひご検討ください。
なお,外部窓口として顧問弁護士を設定している企業が多数ありますが,4で述べるとおり,禁止はされていないもののあまり望ましくないとされております。
⑷ 従業員らへの制度の周知徹底を図ること
せっかく立派な制度(箱)を組み立てても,制度の周知徹底が不十分で制度理解が進まなければ意味がありません。通報制度の意義や枠組のほか,具体的な通報窓口や通報の方法等を,従業員らに継続的に周知させる必要があります。
4.外部窓口を顧問弁護士が兼務することは望ましくない!
顧問弁護士が外部窓口を兼務すること自体は,現状,禁止されておりません。顧問弁護士のほうが,社内事情,実態,企業風土に通じており,事案の要点や事実関係も把握しやすいといったメリットもあるためです。
しかし,顧問弁護士が外部窓口として,例えば重大な社内不正の通報を受けた場合には,会社の利益を擁護すべき顧問弁護士という本来の立場との関係上,相当厳しい利益相反の問題が生じる危険があります。
「通報者のため中立公平に外部窓口として任務を果たすべき立場」と「顧問弁護士として会社の利益を擁護しなければならない立場」とが,特に会社と通報者との間で見解の相違が生じている場合等では,真正面から衝突することになり,弁護士として適切な職務執行を行うことができない事態になりかねません。
このような事態に陥る危険があることを踏まえると,顧問弁護士が外部窓口を兼務することはあまり望ましいことではなく,顧問弁護士以外の弁護士(法律事務所)又は民間の専門会社を外部窓口として設定することがベストでしょう。
やむを得ず顧問弁護士が外部窓口を兼務する場合には,妥協策(私見)としては,①利益相反との関係で,通報を受けた事案については会社側から相談は受けられないし受任もできないこととする,②通報者に対する守秘義務との関係で,通報者の秘密に属する事実については会社側に開示できないこととする,といった配慮をする必要があるのではないかと思います。
また,仮に利益相反や守秘義務の問題をクリアしたとしても,通報者の立場からして,顧問弁護士が外部窓口となっている場合,しっかり対応してくれるのかという不安から通報を躊躇してしまう危険があります。そのため,少なくとも,「外部窓口として設置されている法律事務所は顧問弁護士である」ことを明示し,従業員らに周知しておく必要があるでしょう。
5.ぜひ法律事務所を外部窓口としてご活用ください!
このブログで言いたかったことがようやく言えました。長い前振りでした。敢えて「当事務所を」と書かないところがいやらしいですが,ご勘弁ください(笑)
これは冗談としても,今後,ますます企業の淘汰は進んでいくと思われます。個人の権利意識の高まりも相まって,コンプライアンス意識の乏しい企業はどんどん選択肢から外され淘汰されていくことになるでしょうし,逆に,先進的にコンプライアンス経営の強化に努める企業がますます評価され選ばれることになっていくと思われます。
中小企業が外部窓口設置を躊躇する大きな要因の1つは,間違いなくコスト面と思われますが,上記のとおり,同業の複数の事業者で共通の外部窓口を設定するといったコスト削減策を選択することにより,財務的に無理のない範囲でコンプライアンス経営の強化を図っていくことも可能です。
いわき市の中小企業の皆様に対する当事務所の使命(ミッション)は,①いわき市の中小企業が望む司法サービスを提供しいわき市の企業の力となること(地元いわきの需要に応えていくこと),②財務を圧迫しない法務コストを設定し,継続的に地元いわきの中小企業のサポートさせていただくことであると考えております。
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磐城総合法律事務所 代表弁護士:新妻弘道