今回は下請法の改正について概略をご紹介させていただきます。
親事業者・下請事業者の定義変更、対象取引の追加、禁止行為の追加など重要な改正が含まれておりますので、ぜひご一読いただければ幸いです。
なお、今回の法改正により、下請法の名称も変更され、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(以下「中小受託取引適正化法」又は「取適法」といいます。)という新たな法律名になりました。
改正法の施行日は2026年(令和8年)1月1日となっております。
【今回の項目】
1.親事業者・下請事業者の定義変更
2.適用対象取引の追加(特定運送委託)の追加
3.禁止行為の追加(協議に応じない等一方的な代金決定の禁止等)
- 親事業者・下請事業者の定義の変更
・親事業者・下請事業者に該当するか否かの基準は、従前は①資本金額基準だけでしたが、改正法では新たに②従業員数基準が追加されました。
★追加された従業員数基準の具体的内容は、「中小受託取引適正化法ガイドブック」のP4をご覧ください。
・今回の下請法改正の背景として、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる構造的な価格転嫁の実現を図っていくことが重要であり、価格転嫁を阻害し受注者に負担を押し付ける商慣習を一掃していくことで取引を適正化し、適正な価格転嫁を進める必要があるという状況がありました。
・そして、従前の資本金額基準だけでは、実質的には事業規模は大きいものの資本金が少額である事業者や減資をした事業者が下請法の対象外となるといった事例があったため、このような潜脱を防ぐべく、資本金額基準に加えて新たに従業員数基準が追加されることになりました。
・今回追加された従業員数基準の対象となるのは「常時使用する従業員の数」ですが、これは具体的には、当該事業者の賃金台帳の調製対象となる「常時使用する従業員」(労働基準法108条、109条、労働基準法施行規則55条、様式第20号等)の数によって算定するとされています(運用基準案)。
・2026年以降に下請取引や製造委託取引等を行う際は、相手方の従業員数についても確認を行い、取適法が適用されないかを確認することが必須となります。
- 適用対象取引の追加(特定運送委託)の追加
・これまで、荷主から元請運送事業者への運送委託は下請法の適用対象外でしたが、立場の弱い物流事業者が荷役や荷待ちを無償で行わされている等の物流問題が顕在化したことを受け、荷主が運送事業者に対して物品の運送を委託する取引(4類型)が、新たに取適法の適用対象取引として追加されました。
★4類型については、「中小受託取引適正化法ガイドブック」のP10~11をご覧ください。
3.禁止行為の追加(協議に応じない等一方的な代金決定の禁止等)
・今回の改正で特に大きな改正といえるのが、親事業者の禁止行為の追加になります。
・具体的には、①中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、代金額に関する協議に応じなかったり、協議において必要な説明又は情報提供をしなかったりして、一方的に代金額を決定することが禁止されました(協議に応じない等一方的な代金決定の禁止等)。
・また、②製造委託等代金の支払手段として、手形払が禁止されるほか、ファクタリング等の一括決済方式による支払についても、支払期日までに現実の金銭を得ることが困難なものは禁止されることになりました(手形払等の禁止)。
★各禁止行為の詳細については、「中小受託取引適正化法ガイドブック」のP20、P16をご覧ください。
・コストが上昇している中で、協議することなく価格を据え置いたり、コスト上昇に見合あわない価格を一方的に決めたりするなど、上昇したコストの価格転嫁についての課題がみられたことから、適切な価格転嫁が行われる取引環境の整備が必要とされ、上記①の禁止行為が追加されることになりました。
・2026年以降、中小受託事業者から価格協議を求めたにもかかわらず協議に応じない等を対応をしてしまった場合、取適法違反を問われる危険があることから、そのような協議の申入れがあった場合には適正に対応する必要があります。
・反対に、中小受託事業者サイドとしては、コスト上昇による価格転嫁が避けられない場合には、積極的に親事業者に対して価格協議を申し入れていくことが必須となります。
今回は以上となります。
今後もお役立ち情報をアップしていきますので、ぜひご活用ください。

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磐城総合法律事務所 代表弁護士:新妻弘道