2023年10月20日

独占禁止法についての解説(3)

今回は、前回に引き続き、独占禁止法(以下「独禁法」)の手続部分=エンフォースメント(実効性確保のために用意されている各種制度)についてご説明させていただきます。

・独禁法エンフォースメントについては内容が盛りだくさんのため、2回に分けて配信させていただきます。

・以前のメールにも書かせていただきましたが、独禁法エンフォースメントについては①事前抑止②事後規制という2つの視点で分けて考えていただくと理解しやすいと存じます。

今回も長文となっておりますが、重要な制度に絞って解説いたしますので、ぜひご一読いただきますようお願い申し上げます。

第2 独禁法エンフォースメント(事前抑止)

1.事前抑止①(告示・ガイドラインの公表)
・独禁法に違反する行為がなされないよう、公取委において、告示やガイドラインを公表し、事業者に対して解釈基準や行動指針を提示しております。

・事業者においては、これらの告示やガイドラインを参照して独禁法意識を高め、独禁法コンプライアンス態勢を整備することが求められています。

・態勢整備のための代表的方策として、各社の実情に応じたコンプライアンス・プログラムの作成が挙げられており、具体的には、①コンプライアンス部門・コンプライアンス担当者の設置・指定、②独禁法コンプライアンス・マニュアルの策定、③社内研修の実施、④法務相談体制の整備、⑤社内懲戒ルールの整備等が考えられます(独禁法コンプライアンスについてはこちらもご参照ください。)。

・前回メールでも主要なガイドライン等を挙げさせていただきましたが、改めて主要なものをまとめると以下のとおりとなります。

【告示】

⑴ 不公正な取引方法の一般指定
⑵ 不公正な取引方法の特殊指定(新聞業)
⑶ 不公正な取引方法の特殊指定(特定荷主による物品の運送・保管の委託)
⑷ 不公正な取引方法の特殊指定(大規模小売業者)

【ガイドライン】

⑴ 排除型私的独占ガイドライン(排除型私的独占に係る独禁法上の指針)
⑵ 企業結合ガイドライン(企業結合審査に関する独禁法の運用指針)
⑶ 不当廉売ガイドライン(不当廉売に関する独禁法上の考え方)
⑷ 優越的地位濫用ガイドライン(優越的地位の濫用に関する独禁法上の考え方)
⑸ 流通・取引慣行ガイドライン(流通・取引慣行に関する独禁法上の指針)
⑹ 公共入札ガイドライン(公共的な入札に係る事業者及び事業者団体の活動に関する独禁法上の指針)
⑺ 事業者団体活動ガイドライン(事業者団体の活動に関する独禁法上の指針)
⑻ 知的財産利用ガイドライン(知的財産の利用に関する独禁法上の指針)
⑼ フランチャイズ・システムガイドライン(フランチャイズ・システムに関する独禁法上の考え方)
⑽ スタートアップガイドライン(スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針)

※その他の告示・ガイドライン等についてはこちらをご確認ください

 

2.事前抑止②(事前相談制度)

・事業者又は事業者団体が今後自ら行おうとする具体的行為について、独禁法に抵触するか否かを公取委に事前に相談できる制度になります。
・書面(申出書)により相談し、原則として申出書受領から30日以内に公取委が書面で回答してくれる制度となっており、独禁法や下請法等に違反しないかを事業活動前に確認するための有効な手段となります。
・ただし、事前相談については、相談者名(行為主体者名)、質問内容及び回答内容の公表が条件となっておりますので注意が必要です。
・公表を望まない場合は、電話等で相談して口頭で回答を受けるという一般相談制度もありますので、こちらの利用を検討することになります。

 

第3.独禁法エンフォースメント(事後規制)

1.事後規制①(審査制度)
⑴ 公取委は、独禁法違反の可能性がある行為を把握した場合に調査を開始します。調査の進め方にはいくつか種類がありますが、基本的には行政調査として審査手続が実施されます。
⑵ 調査開始のきっかけ(端緒)となるのは、①一般人からの報告、②公取委自身による探知、③課徴金減免制度(次回説明)を利用した事業者からの報告、④中小企業庁からの請求、の4パターンがあります。
⑶ 審査手続は上記のとおり行政調査権限に基づいて実施されるものであり、通常、①立入検査等②供述聴取③報告命令等という流れで実施されます。

これらの行政調査を経て違反事実が認められた場合、次の「2」で述べるいずれかの措置が取られます。なお、排除措置命令等の重い処分がなされる場合は、事前に対象事業者に④意見聴取の機会が与えられます。

⑷ ①立入検査等では、営業所への立入り、帳簿書類等の物件の検査、物件の提出命令及び留置が行われます。検査や提出命令の拒否に対しては罰則(独禁法94条3、4号。1年以下の懲役又は300万円以下の罰金)があり、強制力が間接的に担保されています。現在の運用上、立入検査の円滑実施に支障がない範囲で弁護士の立会いが認められています。

⑸ ②供述聴取には、任意的な供述聴取のほか、同じく罰則(独禁法94条1号。量刑同上)による間接的な強制力を伴う出頭命令・審尋があります。現在の運用上、供述聴取時の弁護士立会いは認められていませんが、休憩時間中の弁護士等との連絡、接触、相談は禁止されていませんので、事案によっては防衛のため弁護士との接触手段を確保しておく必要があります。

⑹ ③報告命令等とは、事件関係者や参考人から調査に必要な事項・情報について報告を徴することができる制度になります。任意の報告を求める報告要請と、罰則(独禁法94条1号。量刑同上)による間接的な強制力を伴う報告命令があります。

⑺ ④意見聴取手続は、排除措置命令又は課徴金納付命令をしようとするときに対象事業者に対して実施されます。

概ね、意見聴取を実施する旨の通知公取委の立証資料の閲覧・謄写請求意見聴取期日における意見陳述、証拠提出、聴取官の許可を得ての質問→公取委への手続の結果報告書の提出(当事者による閲覧可能)という流れで手続が進められます。

通知から意見聴取期日までは概ね2週間から1か月程度の期間が設けられるため、この間に、公取委の立証資料の閲覧謄写、期日に先立つ書面・証拠書類の提出等の準備作業を行うことになります。

対象事業者としては、特に、公取委の立証資料の閲覧・謄写、期日における意見陳述及び証拠提出、結果報告書の閲覧は間違いなく行っておく必要があります。代理人の選任が可能ですので、弁護士への委任はマストとなります。

⑻ 以上の審査手続の流れにつきましては、添付の処理手続図も適宜ご参照ください。

今回は以上となります。

 

次回は、独禁法エンフォースメントの続きとして、
2.事後規制②(違反行為の是正:警告・注意、排除措置命令、緊急停止命令)
3.事後規制③(ペナルティ:課徴金納付命令、罰則)
4.事後規制④(効率的・効果的な独禁法の目的達成のための措置:確約手続、課徴金減免制度)
5.事後規制⑤(私的エンフォースメント:無過失損害賠償責任、差止請求)

についてご説明させていただきます。

この記事を書いた人
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