今回は、前回の記事の続きとして、独占禁止法(以下「独禁法」)の全体像をもう少し細かくご紹介させていただきます。
独禁法の全体像を理解するためには、大きく、
1.実体法部分を理解すること(特に3大禁止行為と言われる①私的独占、②不当な取引制限(カルテル)、③不公正な取引方法)
2.手続部分=エンフォースメント(実効性確保のために用意されている各種制度)を理解すること(①事前抑止と②事後規制)
という2つの視点を持っていただくことが有益です。
上記の視点を前提に、今回は独禁法の実体法部分の大枠をご説明させていただきます。
長文となっており恐縮でございますが、ぜひご一読いただきますようお願い申し上げます。
第1 実体法部分
1.私的独占(独禁法2条5項、3条)
【要件】
⑴事業者が、
⑵単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもってするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより(行為要件)、
⑶公共の利益に反して(違法性阻却要件)、
⑷一定の取引分野における競争を実質的に制限すること(効果要件)、
が成立要件となります。
⑵行為要件から、私的独占はさらに①排除型私的独占、②支配型私的独占の2種類に分類されます。
【⑵行為要件―①排除型私的独占】
・排除行為とは、競争者の市場での事業継続や市場への新規参入を困難にする行為を指します。
・例えば、不当廉売(ダンピング)や差別対価等により競争者の市場での事業継続・市場への新規参入を困難にする、既存取引先に対して競争者
と取引しないことを条件として取引することで競争者の市場での事業継続・市場への新規参入を困難にする、といった行為が挙げられます。
※排除型私的独占の主な事例:インテル事件、東日本電信電話事件、日本音楽著作権協会(JASRAC)事件など
・排除型私的独占については、公正取引委員会(以下「公取委」)から排除型私的独占ガイドラインが公表されており、同ガイドラインでは、
排除行為の典型例として以下の4類型が定められています。
ア.商品を供給しなければ発生しない費用を下回る対価設定(※この場合、商品を供給すればするほど利益<費用となり損失が拡大することになるため、経済的合理性なし)
イ.排他的取引(※既存取引先に対して、競争者と取引しないことを条件として取引する等)
ウ.抱き合わせ(※主たる商品に従たる商品を組み合わせて供給することが、従たる商品の市場において競争者の事業活動を困難にする場合に排除行為に該当しうるとされている)
エ.供給拒絶・差別的取り扱い(※川上市場の事業者が、川下市場への事業者に対して、合理的範囲を超えて商品の供給拒絶や供給制限、供給のための条件設定等を行った場合、排除行為に該当しうるとされている)
・これら4類型が常に排除行為に該当するわけではなく、同ガイドラインの示す判断基準(市場の状況、事業者の地位、行為態様等)を総合的に考慮して、事業者の市場における事業活動を困難にさせているか否かを判断し、排除行為に該当するかを判定します。
【⑵行為要件―②支配型私的独占】
・支配行為とは、他の事業者の自由な意思決定を困難にし、自己の意思に従わせる行為を指します。
・例えば、株式取得や役員兼任等によって競争者の自由な意思決定を困難にする、取引上の優越的地位を利用して相手方に圧力をかける等して自己の意思に従わせる、といった行為が挙げられます。
※②支配型私的独占の主な事例:野田醤油事件、パラマウントベッド事件、福井経済農業協同組合連合会事件など
・支配型私的独占については公取委からガイドライン等は公表されておりませんが、過去の裁判例(野田醤油事件)では、「原則として何らかの
意味において他の事業者に制約を加えその事業活動における自由な決定を奪うことをいう」との判断が示されており、支配の態様に特段の限定を設けておりません。
【⑷効果要件―競争の実質的制限】
・「競争を実質的に制限する」とは、競争自体が減少して、特定の事業者又は事業者団体が、その意思である程度自由に価格、品質、数量その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる状態が形成・維持・強化されていることを指します。
・市場を支配できる状態が形成・維持・強化されていればよく、現実に価格の引上げ等がなされていなくても競争の実質的制限が認められます。
・排除型私的独占ガイドラインでは、判断要素として、
①行為者の地位(市場シェアや順位等)・競争者の状況、
②潜在的競争圧力(制度上の参入障壁の程度等)、
③需要者の対抗的な交渉力(取引先変更が困難等の理由で、需要者が行為者に対
して対抗的な交渉力を持っていない等)、
④効率性、
⑤消費者利益の確保に関する特段の事情、
が列挙されており、これらの事情を考慮して競争の実質的制限が生じているか否かを判断します。
2.不当な取引制限(カルテル)(独禁法2条6項、3条)
【要件】
⑴事業者が、
⑵契約、協定その他何らの名義をもってするかを問わず、他の事業者と共同して 対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより(行為要件)、
⑶公共の利益に反して(違法性阻却要件)、
⑷一定の取引分野における競争を実質的に制限すること(効果要件)、
が成立要件となります。
⑶違法性阻却要件と⑷効果要件の内容は、「1.私的独占」とほぼ同様であるため割愛します。
なお、不当な取引制限(カルテル)において、⑷効果要件の「競争を実質的に制限する」を判断する場合、「市場シェアが50%以上」であることが1つの基準になっていると推測されると言われているため、目安の1つとしてご参照ください。
【⑵行為要件―他の事業者と共同して】
・一般的に「共同行為」と呼ばれる要件であり、複数事業者の共同行為によってのみ不当な取引制限(カルテル)は成立します。
・なお、複数事業者が共同して新規参入事業者を排除する行為をした場合、排除型私的独占に該当する可能性もありますので、必ずしも「複数事業者による行為=不当な取引制限(カルテル)が問題となる」わけではないことにご注意ください。
・共同行為が成立するためには、行為の結果が外形的に一致した事実があるだけでは足りず、行為者間に何らかの意思の連絡が必要となります。
・意思の連絡は、契約等のように相互に法的に拘束しあう合意である必要はなく、また黙示のものでも足りるとされています。
・裁判例(東芝ケミカル審決取消訴訟)では、複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思があれば足りるとされ、対価引上げ行為に関する情報交換をして、同一又はこれに準ずる行為に出た場合には、原則として意思の連絡(=黙示の意思連絡)があると判断しており、判断基準として参考になります。
【⑵行為要件―相互にその事業活動を拘束し、又は遂行】
・一般的に「相互拘束」と呼ばれる要件であり、各事業者が相互に一定の制限を設定すれば足りると解されています。
・拘束の程度は非常に緩く解されており、合意の実効性を確保するための措置(制裁など)が取り決められる必要はなく、紳士協定であっても相互拘束の要件を満たす可能性があります。
・実際上は、合意があれば相互拘束の要件もほぼ認められると考えて差支えないと思われます。
3.不公正な取引方法(独禁法2条9項、19条)
【類型】
以下の行為が不公正な取引方法に該当すると定められております。
⑴2条9項1号:共同取引拒絶
⑵同項2号:不当な差別対価
⑶同項3号:不当廉売
⑷同項4号:再販売価格の拘束
⑸同項5号:優越的地位の濫用
⑹同項6号:一般条項 → 公取委の一般指定により以下の15行為が指定されている。
①共同の取引拒絶
②その他の取引拒絶
③差別対価
④取引条件等の差別的取扱い
⑤事業者団体における差別的取扱い等
⑥不当廉売
⑦不当高価購入
⑧ぎまん的顧客誘引
⑨不当な利益による顧客誘引
⑩抱き合わせ販売等
⑪排他条件付取引
⑫拘束条件付取引
⑬取引の相手方の役員選任への不当干渉
⑭競争者に対する取引妨害
⑮競争会社に対する内部干渉
以下、主要な対象行為について簡単にご説明させていただきます。
【取引拒絶(2条9項1号、一般指定1項)】
・供給取引の場面と購入取引の場面があり、かつ、事業者自らが取引拒絶を行う直接の取引拒絶の場合と他の事業者に取引拒絶をさせる間接の取引拒絶の場合があるため、以下のとおり4パターン全てが禁止行為となっています。
供給拒絶 | 購入拒絶 | |
直接 | 2条9項1号イ | 一般指定1項1号 |
間接 | 2条9項1号ロ | 一般指定1項2号 |
【不当な差別的対価(2条9項2号、一般指定3項)】
・不当な差別的対価はもともと全て一般指定3項に定められていましたが、法改正によって、商品・役務の継続的な供給に関する差別対価の設定が独禁法2条9項2号に格上げされて禁止行為となりました。
・2条9項2号に該当するものは、一定の要件の下で課徴金納付命令の対象となることが最大の相違点となります。これに対し、一般指定3項に該当するものは課徴金納付命令の対象となりません。
【不当廉売(2条9項3号、一般指定6項)】
・公取委から不当廉売ガイドラインが公表されており、基本的にこれに従い該当性を判断します。
・総販売原価(対象商品の供給に要する全ての費用の合計)を著しく下回る価格の場合、不当廉売に該当します。
・2条9項3号に該当するものは一定の要件の下で課徴金納付命令の対象となる、一般指定6項に該当するものは課徴金納付命令の対象とならないという点は、不当な差別的対価の場合と同様です。
【再販売価格の拘束(2条9項4号、一般指定11項、12項)】
・メーカーが卸売業者に対して、又は卸売業者が小売業者に対して、再販売価格を拘束することが典型例となります。
・いわゆる「メーカー希望小売価格」や「建値」は、流通業者に対して単なる参考数値として示されている限りは問題となりませんが、その価格を何らかの手段(リベート等を供与するなど)で順守させるなど、流通業者の販売価格を拘束する場合」には、当該禁止行為に該当します。
【優越的地位の濫用(2条9項5号、一般指定13項)】
・前回の記事でご説明させていただきましたとおりになりますが、改めて記載いたします。
・優越的地位にあることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に独禁法2条9項5号記載の濫用行為を行った場合、課徴金の対象となります。
・取引の相手方との関係で相対的に優越した地位にあれば足り、相手方との取引継続が困難になることが経営上大きな支障を来すため、相手方から著しく不利益な要請等がなされても受け入れざるを得ないような状況(取引を打ち切られる等すると非常に困る状況)にあれば、優越的地位は認められると解されています。
・濫用行為の典型例としては、①購入・利用の強制、②経済上の利益提供の要請、③不利益な取引条件の設定・変更等、④商品等の受領拒否、返品、代金支払遅延等があります。
・「正常な商慣習に照らして不当に」行われることが要件ですが、現に存在する商慣習に合致しているからといって行為が直ちに正当化されることにはなりません。「正常な商慣習」とは、公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認されるものでなければならないとされており、このチェックをクリアできた商慣習のみが「正常な商慣習」と評価されます。
・公取委から優越的地位濫用ガイドラインが公表されており、基本的にこれに従い判断することになります。
※優越的地位の濫用が認められた事例:日本トイザらス事件、山陽マルナカ事件など
今回は以上となります。
次回は、
「第2 エンフォースメント」として、
1.事前抑止
2.事後規制
といった手続部分についてご説明させていただきます。
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