2014年4月18日

相続の基礎知識4・遺留分減殺請求~相続,遺言,遺留分の法律相談ならいわきの弁護士新妻弘道・磐城総合法律事務所へ~

今回は,遺留分減殺請求についてお話しさせていただきます。

遺留分の基本知識については こちらのページ をご覧ください。

上のページでご説明したとおり,遺留分とは,「遺産として留めておくべき分」,要するに,法定相続人の手元に確保されなければならない遺産のことを言います。
例えば,被相続人が遺言によって,所有する遺産を全て第三者に移転させてしまった場合,法定相続人は,自分の遺留分割合に応じ,自分の遺留分を侵害している限度で財産を取り戻すことができます。

<1 遺留分の侵害額の計算方法>

この遺留分侵害の限度をどうやって計算するかということについては,計算例を出したほうが分かりやすいので,以下のような例で説明します。

【計算例】

被相続人:Aさん

相続人:①Bさん(Aさんの妻)  ②C君(AとBの子)  ③D君(AとBの子)

相続財産:現金6000万円

Aさんの相続財産現金6000万円を,Aさんが遺言で,不倫相手のEに渡してしまったと仮定します。
その場合の遺留分侵害の計算は以下のようになります。

①相続財産に対する総体的遺留分を算定する。※総体的遺留分とは,相続人全員の遺留分合計と思ってください。

今回のケースでは,相続財産の2分の1が総体的遺留分になります。

6000万円×1/2=3000万円

②相対的遺留分に各自の法定相続分をかけ,個別的遺留分を算定する。※個別的遺留分とは,相続人各自の遺留分です。

Bさん→3000万円×1/2(Bさんの法定相続分)=1500万円

C君→3000万円×1/4(C君の法定相続分)=750万円

D君→C君と同じ計算式で,750万円

よって,BさんはEに対し,1500万円の限度で遺留分減殺請求を行うことができ,C君とD君はそれぞれ,750万円の限度で遺留分減殺請求を行うことができます。

要するに,Bさんは「1500万円は返せ」と主張でき,C君とD君は,それぞれ「750万円は返せ」と主張できることになります。結果的に相続人全体で3000万円を取り戻すことができるというわけです。

上のケースだけを見ると簡単なように感じますが,実務において具体的な遺留分の侵害額を算出するのは大変です。

実務においては,遺留分侵害額の算定は以下のような計算式で行われています(最高裁平成8年11月26日民集50巻10号2474頁の考え方です)。

①被相続人の相続開始時の財産の価格に,贈与した財産の価格を加える。

②そこから被相続人が負っていた債務の全額を控除する。これにより遺留分算定の基礎となる財産額が確定する。

③遺留分算定の基礎となる財産額に民法が定める遺留分割合をかけ,総体的遺留分を算定する。

④複数の遺留分権利者がいる場合,各自の法定相続分をかけて個別的遺留を算定する。

⑤遺留分権利者が特別受益を受けているときは,その金額を控除する。

⑥遺留分権利者が相続によって得た財産があるときはその額も控除する。

⑦遺留分権利者が相続することになる被相続人の債務の額を加える。

→具体的な遺留分の侵害額が算定される。

このような計算式で具体的な遺留分の侵害額は計算されるので,実際の計算は非常に大変です。相続時の財産の価格と一口で言っても,例えば不動産の場合,相続開始時の時価額をどう算定するかということから問題になりますし,特別受益(生前に被相続人から受けていた特別の利益。生活費の支援等)をいくらと評価するかなどもよく問題になります。

いずれにせよ,実際の侵害額の算定はかなり難しいので,専門家の判断を仰ぐ必要があるでしょう。

<2 消滅時効>

遺留分で非常に大切な点が,消滅時効があるという点です。

こちらのページ に書いてあるとおり,遺留分減殺請求権は,「①相続の開始と②減殺対象となる遺贈・生前贈与を知った時から1年」という短期間で消滅時効にかかりますので,速やかに権利行使を行う必要があります。

この消滅時効について最近,新たな最高裁判例が出ました。

最高裁第2小法廷平成26年3月14日判決になります。

ある相続人が,被相続人の死亡時に遺留分減殺請求ができることを知っていましたが,その相続人は精神障害を患っていて法定代理人もおらず,およそ権利行使できない状態にありました。遺留分減殺請求の消滅時効期間が過ぎる前に成年後見開始の申立てがなされ,消滅時効期間が経過した後に成年後見人が選ばれ,その後見人が遺留分減殺請求をしたところ,相手方は消滅時効が完成していると争った事案になります。

この事案で,最高裁は,「時効の期間の満了前6箇月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者に法定代理人がない場合において,少なくとも,時効の期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がされたときは,民法158条1項の類推適用により,法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は,その者に対して,時効は,完成しない」との判断を下しました。要するに,後見人が就任してから6か月間は遺留分減殺請求ができますよ,と判断しました。

興味深い判例ですので,時間があればご確認ください。 最高裁第2小法廷平成26年3月14日判決 はこちらをご覧ください。

この記事を書いた人
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