前回のブログでは,地方の法律事務所への就職希望者が少ないという話を書きました。
そのブログの最後に,「現在の弁護士業界はまさに斜陽産業化真っ只中の状態にあります。」という何とも自虐的な内容を書きましたので,今回はその意味,すなわち現在(2016年3月現在)の弁護士業界の現状と今後の展望について,私の感じている感想を書きたいと思います。今回は結構な長文です。
【弁護士業界の現状。2016年3月】
前回のブログにも記載したとおり,司法制度改革による弁護士の増加によって,弁護士業界は大きく変化を遂げました。
弁護士の期別人口分布を見ても,見事に若手世代が突出して多くなっています。特に60~64期の弁護士数が非常に多く,その後の65~67期は,急進的な増員政策に対する批判的意見が高まったことにより人口が減少しています。さながら,60~64期が弁護士版団塊世代として君臨しています。
ちなみに,私も新62期でして,見事にこの弁護士版団塊世代のど真ん中に鎮座しています(笑)
弁護士の増員について,ウェブ上の意見では否定的な意見が多い印象を受けますが,成果を上げた面も当然あります。ゼロワン地域の実質的解消がその最たるものといえ,ゼロワン地域(裁判所管轄区域内の弁護士数が0名又は1名の地域)がほぼ解消されるなどの成果が上げられました。国民があまねく司法サービスを受けられるようにする,市民の司法アクセスを改善するという点から見た場合,この成果は非常に大きいと思います。
その一方で、前回のブログに書いたとおり,同業者弁護士が増員したことの当然の帰結として,弁護士の所得は一貫して減少傾向にあります。
平成26年の所得調査では、所得の平均値が907万円、所得の中央値(所得額順に並べた場合に全体の中央にくる値)は600万円となり、ついに平均値ベースでも1000万円を切ってしまいました。
弁護士の約46%が集中している東京では,地方と変わらない一般民事事件を取り扱ういわゆる「町弁」の先生方は経営に非常に苦慮されているようです。私自身が東京で働いているわけではないので分かりませんが,印象としては,「主に個人依頼者の一般民事事件等を扱う町弁分野」としては,完全に供給過剰の状態であり買い手市場となってしまっているようです。
価格競争で弁護士費用はどんどん安くせざるを得ず,その反面,事件処理にかける労力や時間は削れない(※費用の有無や多寡によって弁護士の善管注意義務の程度は変動しないため,いわば安いから手を抜くということはできません。高度の専門職だから当然ですが。)という悪循環に陥ってしまっている弁護士が少なくないのかな,と感じています。
そういった影響もあって,弁護士としての事業所得が年間200万円以下の弁護士も少なからず出ています。日弁連への会費が払えず弁護士登録をしないという笑えない話も聞きます。
以前に比べると,「弁護士は安定した高額所得者である」とはもはや言えない時代になっていることは間違いありません。
しかも,今後の日本の人口予測のシミュレーション(当たり前ですが日本の人口は減っていきます)も考慮すると,少なくとも「個人依頼者の一般民事事件」を専ら手がけるというスタイルで,司法制度改革前に弁護士が獲得できていたであろう所得(完全にイメージですが1500~2000万円くらいの所得?)を維持するのは,まず不可能と言っていいと思います。
※弁護士人口と日本の人口予測のシミュレーションとの関係について,数字的なものはこちらのブログもご参照ください。
ここまで書いていてすでに自分でも暗い気持ちになってきていますが(笑),今後の弁護士業界はどのようになっていくかも少しだけ考えてみたいと思います。
【今後の展望・弁護士のやるべきこと】
東京と地方でだいぶ様相は異なりますが,東京はすでに同業者間競争によって淘汰が始まっていると見てよいでしょう。
既存の法分野や案件分野で確固たる地位を築いている弁護士を追い越すのは相当大変ですので,過度の競争や淘汰に巻き込まれないようにするためには,法的サービスが十分に及んでいないニッチ産業分野への進出を目指すようになるのかなと思います。新規分野の開拓は日弁連も言及しておりますし,実際,まだまだ未開拓の分野(需要すら認識されていない分野)はあると思いますので,どの未開拓分野に着目するのか,その未開拓分野にどうアプローチしていくかがセンスの見せ所ですね。
「経営者の飲み会や会合に顔を出す」という古典的アプローチも,案外バカにできないと思います。「短期的視点ですぐに顧問を取りたい」という視点で顔を出す弁護士もいると思いますが,当然すぐに顧問先はできません。誰もが顧問先にしたい優良企業には当然すでに顧問弁護士がいますし,特に人的関係が密な(狭い)地方では,「じゃあ先生を顧問に変えます。」なんて簡単に行くわけもないからです。
どちらかというと,弁護士業だけではなかなか養えない経営者の感覚とか,弁護士業だけではまず耳に入ってこない経済界・政治界の情報に触れることのほうが重要かなと思います。こういった感覚や情報に触れておくことで,未開拓分野の発見につながるとか,経営者の潜在的需要を感じ取れるような気がしています。
また,供給者側の頭数が増えている現状,単純に「顔を売っておく」ことで,最初の弁護士の選択肢の中に自分の顔が思い浮かぶようにしておくことも,古典的ですが大事だと思います。
まあ地方の場合,未開拓分野に触れる機会が圧倒的に少ない(東京が発信地になることが大半である)という問題に加え,そもそも専門分化しにくいという大問題があるので,未開拓分野の開拓に力を注ぐことは,機会も少なくかつリスキーでもあるといえ,なかなかジレンマが生じてしまいます。
私もできれば,「この分野は私に任せてください!」と言えるような分野を持ちたいとは思っていますが,その辺りはタイミングと,クライアント・案件とのご縁を待つしかないですね。
個人的には,弁護士業務の特性上,「価格競争」≒「薄利多売」はいずれ限界を迎えるような気がしていますが,その辺りもさらに二極化していくんですかね。①大人数の弁護士と事務局を要し,事務所を全国に設置し,「業務を極力マニュアル化して大量迅速に処理する」という方向を目指す事務所と,②「個々の案件の個性に応じたフルオーダーメイドのサービス提供と,それに見合う相当な対価」という方向を突き詰めていく事務所(これは個人事務所・大規模事務所を問いません)に,さらに先鋭的に二極化していくのでしょうか。
消費者としては,どちらの選択肢もあり,トラブルになった案件の性質(パターン化した処理が可能な案件なのかそうでないのか)によって両事務所を使い分ける,というほうがありがたいと思いますが,前者(①)の方向性の受け皿となる案件分野(かつての過払案件のような分野)が本当にあるのかな?と思ってしまいます。それを見つけるのが経営者弁護士の腕の見せ所でしょうが,相続分野は税理士の先生も司法書士の先生も食い込んできていますし,どこに供給形態とマッチする需要を求めるのか?という根本的疑問があります。離婚案件とかになるのか?かつては残業代請求案件がそれだ!と言われていましたが,それほど件数が増えた印象は受けません。
また,弁護士増員によっても地方事務所への就職者はそれほど増えず,東京への一極集中がさらに高まっている現状では,(すでに起こっていますが,)東京から地方へと活動拠点を移す弁護士がどんどん増えてくると思います。
その際に地方の弁護士としてどのように優位性を保持していくかも,ほんの少しだけですが,配慮しておかなければいけない気がします。私の考え過ぎかもしれませんが,未だに「東京の弁護士=エリート,出来が良い」,「地方でやっている弁護士=あまり出来がよくない(死語ですが「都落ち」)」という誤解が残っているように感じることがあるためです。そのような誤解が残っている可能性があることを踏まえ,嫌味にならない程度に実績や能力を自己アピールをしておく必要があると感じています。
いずれにせよ,弁護士業界としては,もっと弁護士業務の特性(基本的に案件ごとのフルオーダーメイドの仕事であること,基本的にその案件にかけた時間を売る商売であること)を消費者側に情報発信していくことが必要なんじゃないか,と個人的には思っています。
「より安く,より良いサービスを」を消費者が追及することは至極当然ですので,供給者側のほうで,それによる弊害が生じうること(1つの事件に割ける時間が減少し提供するサービスの質が落ちる危険があること,効率化という名目のもとで処理がマニュアル化してしまい,事件の個性を踏まえた処理ができない危険があること等)を,誤解を恐れずに発信していくことが大事だと思っています。
そのような弊害が生じうることを知ってもらった上で,なお消費者が「より安く,より良いサービスを」を追及するのであれば,弁護士側が変わるしかないと思いますし,そのような負の側面が生じうることをしっかり発信していくことが,中長期的に見た時に,司法(弁護士)に対する国民の信頼維持に繋がるのではないかと思っている今日この頃です。
最後までお読みいただきありがとうございました。書くの疲れました(^_^;)
⇒弁護士業界の現状と今後について,2017年2月に改めて記事を書きました。
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磐城総合法律事務所 代表弁護士:新妻弘道