2022年1月17日

「インターネット上の名誉棄損・誹謗中傷対策」に関する情報紹介

「発信者情報の開示請求の負担を軽減するための法改正」に関する情報をご紹介いたします。

インターネット上の掲示板サイトや口コミ情報に名誉棄損や誹謗中傷となりうる書き込みがなされた場合、書き込みの削除をサイト
管理者に求めることも大切ですが、削除が認められてもまた別の書き込みがなされてしまう、あるいは、被害者から反応があった
ことにより増長して一層辛辣な書き込みがなされてしまう(火に油を注ぐ)というケースがままあります。
そのため、より根本的な解決を図るため、①当該書き込みの発信者を特定し、②当該発信者に対して損害賠償請求を行う、という
手段を検討する必要があります。

現行法で①発信者の特定をするためには、最低でも2段階の手続を経る必要がありますが、この方法を理解する前提として、まず、
インターネット上の書き込みがなされる仕組み(流れ)を簡単に理解しておく必要があります。

以下に簡単な図を載せておりますが、インターネット上の書き込みがなされる場合、

①まず、発信者がPCなりスマホなりを用いて、アクセスプロバイダ(AP。インターネット接続サービス提供業者。OCN、BIGLOBE、
Nifty、携帯電話会社等)を通じてインターネット空間にアクセスし、

②次に、コンテンツプロバイダ(CP。SNSや掲示板サービス等の個々のウェブサイトの管理業者。Twitter、Facebook、2ちゃん、
爆サイ等)が管理する掲示板等に具体的な書き込みをする、

という流れを経ることになります。

そのため、発信者を特定するには、この流れを逆に追っていくことになり、

①まず、掲示板等を管理するCP宛に、当該書き込みをしたPCやスマホ等のIPアドレス(インターネット通信機器に割り当てられる
数字の羅列。
インターネット上の相手方の識別番号・住所のようなもの)やタイムスタンプ(書き込みがなされた具体的な日時の記録)の開示
請求を行い、(※開示されたIPアドレスから、ウェブ上の検索サイトを使ってAPを特定できます。)

②次に、判明したAP宛に、CPから開示されたIPアドレスとタイムスタンプを開示して、発信者情報(契約者の氏名,住所等)の
開示請求を行う、

という2段階での請求を行っていくことになります。

≪書き込みの流れ等の概略図≫
(書き込みの流れ)
①発信者 → ②APを通じてインターネット空間にアクセス → ③SNS、掲示板等(CP管理)に書き込み

(発信者の特定のためには)
③発信者の特定 ← ②AP宛に発信者情報(契約者の氏名、住所等)の開示請求 ← ①CP宛に発信者情報(IPアドレス、タイム
スタンプ等)の開示請求

①のCP宛の発信者情報開示請求については、基本的には仮処分という裁判手続を行うことになりますが、裁判外で任意に開示して
くれるケースも少なからずあります。
しかし、次の②AP宛の発信者情報開示請求については、ほぼ例外なく訴訟をしなければなりませんので、最終的に発信者情報が開示
されるまで1年程度を要することも珍しくありません。
また、これらの2段階の手続と並行して、発信者情報の保存(消去禁止)の請求や仮処分も行わなければならないケースもあり、
時間的に費用的にも相当のコストがかかります。事案次第ではありますが、一般的に、発信者情報の開示請求に要する一連の弁護士
費用は60万円程度を要するとも言われておりますので、費用面での負担も決して安くはございません。

2.改正法(改正プロバイダ責任制限法)の概要(2021.4.28公布。施行は公布から1年6月以内=2022年中に施行)
最近のインターネット上での誹謗中傷が大きな社会問題となったことを受けまして、以上のような現行法の課題(時間的・費用的
コストが大きいこと等)を解消するため、プロバイダ責任制限法が改正されました。
改正内容は大きく、⑴新たな裁判手続の創設、⑵発信者情報の開示範囲の拡大の2点になります。

⑴ 新たな裁判手続(非訟手続)の創設
CP宛の手続とAP宛の手続を一括して1回の手続で発信者の特定まで行えるよう、現行法上の手続とは別の新たな非訟手続が新設
されました。
この手続では、①発信者情報開示命令、②発信者情報等の提供命令、③発信者情報の消去禁止命令という3種類の裁判所の命令を、
1回の非訟手続の中で順次申立・審理していくことが可能となります。

実際の手続の流れとしては、以下のようになると想定されます。

【新たな非訟手続の流れ(現時点での想定)】
①まず、被害者がCPに対して、発信者情報開示命令の申立てと情報提供命令の申立てを同時に行う。

②裁判所は、発信者情報開示命令事件の審理を行いつつ、CPに対して情報提供命令を発令する。
※CPに命じられる情報提供の中身は、「被害者に対して、APに関する情報を提供せよ」というものと、「APに対して、CPが保有
している発信者情報を提供せよ」の2つになります。

③被害者は、情報提供命令に従いCPから提供されたAPの氏名・住所等の情報を基にして、APに対しても、発信者情報開示命令の
申立てを行う。と同時に、APに対して、情報提供命令及び消去禁止命令の申立てを行う。

④裁判所は、APに対する発信者情報開示命令事件の審理を行いつつ、APに対して情報提供命令及び消去禁止命令を発令する。

⑤CP及びAPに対する発信者情報開示命令事件の審理が終了。同命令が発令されれば、CP及び APから各々が保有している発信者
情報の開示を受ける。

⑥開示された発信者情報を基に、発信者に対して損害賠償請求を行う。

なお、手順上では申立てを別々に行うような形になっておりますが、1つの手続内で発信者の特定まで完了させることが目的
ですので、実際の運用では、独立した事件として別々に申し立させるのではなく、相手方や申立内容を追加させるような方法
を取るのではないかと思われます。
この辺りの実際の運用方法は、法務省又は裁判所からのアナウンスを待つ必要があります。

②発信者情報の開示範囲の拡大
改正前のプロバイダ責任制限法は、FacebookやTwitterに代表されるようなログイン型サービスを想定していなかったため、
改正前法で開示が認められていた発信者情報では、ログイン型サービスにおける発信者の特定には不十分でした。
具体的には、改正前法では、開示を求められるのは「当該権利の侵害に係る発信者情報」と定義されておりましたが、
ログイン型サービスの場合、ログイン時やログアウト時のIPアドレスやタイムスタンプ等の発信者情報(ログイン時等情報)
は保管されているものの、実際の投稿時(権利侵害行為に当たる投稿時)の発信者情報は保管されていないことが一般的でした。

このような場合、発信者の特定のためにはログイン時等情報を開示してもらうしかありませんが、このログイン時等情報は、
厳密に言えば、権利侵害行為に当たる実際の投稿の前後の時点の発信者情報に過ぎませんので、果たして「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するのか疑義がありました。
今回の法改正では、このような疑義を解消するため、ログイン時等情報も開示対象に含まれることが法律上明記されました。

以上の法改正を活用して、今後は発信者情報の開示請求の負担が徐々に軽減されていくことになると思われます。

なお、以上の改正内容や改正前法の問題点等につきましては、東京弁護士会の会員向け書籍でも特集ページ(インターネット
上で公開されております)で解説がなされておりますので、もしご興味があればご一読いただければ幸いです。

https://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2021_0708/p02-15_ippan.pdf

この記事を書いた人
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