2022年11月24日

「令和4年度消費者契約法」改正のご紹介

令和4年度消費者契約法改正

今回は、「令和4年度消費者契約法」改正のご紹介いたします。

本年6月1日に改正法が公布されており、施行は1年後の2023年6月1日を
予定しております。
消費者の新たな権利や新たに無効となる契約条項が追加されたほか、事業者側の
新たな努力義務も追加されておりますので、この機会にぜひご確認ください。

【令和4年度消費者契約法改正の概要】
1.新たな契約の取消権の追加

事業者の不当な勧誘等により消費者が合理的な判断をすることができないという
事情があり、そのような事情を不当に利用して契約をした場合、契約の取消権を
認めるべきであるとして、以下の3類型の取消権が新たに追加されました。

(1)勧誘することを告げずに退去困難な場所へ同行し勧誘した場合
①契約の締結について勧誘することを告げずに、②消費者が任意に退去すること
が困難な場所であることを知りながら、③当該場所に消費者を同行して勧誘を
する場合に、契約(申込み又は承諾の意思表示)を取り消せるとしています。

(2)威迫する言動を交え、相談の連絡を妨害した場合
①勧誘場所において、②消費者が契約締結について相談を行うために電話等の
方法で第三者と連絡する意思を示したにもかかわらず、③威迫する言動を交え
て、④第三者への連絡を妨げる場合に、同じく契約を取り消せるとしています。

(3)契約前に目的物の現状を変更し、原状回復を著しく困難にした場合
①消費者が契約の申込みや承諾の意思表示をする前に、②事業者が契約の
目的物の現状を変更し、③変更前の原状への回復を著しく困難にした場合に、
同じく契約を取り消せるとしています。
※この条文は若干事例が想像しにくいですが、例えば、「契約前に商品の
パッケージを破って(再パッケージ不可能な状態にして)中身を見せて、消費者
が買わざるを得ないようにする」、「契約前に家具などを削ったり脚を切ったり
してサイズ調整してしまい、消費者が買わざるを得ないようにする」といった
ケースが考えられます。いずれも、消費者が合理的判断をできないような状況に
置くものであり、不当な状況を利用して契約させるものとして、取消権が認め
られました。

2.免責の範囲が不明確な条項(いわゆるサルベージ条項)を無効とする
規定の追加

事業者の賠償責任を不当に制限する条項があると、消費者が法律上行使可能である
はずの権利を行使しなくなってしまう等の弊害が生じることから、以下の条項
(いわゆるサルベージ条項)が新たに不当条項(法的に無効となる条項)に追加
されました。

①事業者の債務不履行責任又は不法行為責任の一部を免除する条項であって、
②事業者側の重過失以外の過失行為のみに適用されることを明示していないもの
(=軽過失行為のみ一部免責されると明示していない条項)は、無効となる。
例えば、「法令に反しない限り、金●円を上限に賠償します。」といったような
条項では、軽過失の場合のみ責任上限額が設定されている条項とは読めない
(免責範囲が不明確である)ため、無効となります。
他方、「軽過失の場合は、金●円を上限に賠償します。」という条項であれば、
軽過失の場合のみ責任上限額が設定されている条項であることが読み取れるため、
有効となります。

すなわち、一部免責条項を設ける場合には、「軽過失の場合に限り一部免責され
る条項であること」が消費者に簡単に読み取れる条項にする必要があります。

3.解約料の説明努力義務など事業者の努力義務の追加・拡充

事業者側から消費者側へ可能な限り事業者固有の情報を提供し、紛争発生時に
おける消費者側の立証負担の軽減を図る(※)といった目的から、以下の努力
義務が追加・拡充されました。
(※)消費者契約上、損害賠償額の予定条項や違約金条項が定められている
ことが多いですが、これらの条項については、消費者契約法上、「当該事業者に
生ずべき平均的な損害額を超える部分は無効となる」とされています。
しかし、「当該事業者に生ずべき平均的な損害額」の立証のためには、当然な
がら事業者側の固有の事情を踏まえなければならないため、従前、消費者側の
立証が難しい(事業者側の事情が分からないので「当該事業者に生ずべき平均
的な損害額」も把握しようがない=どこからが無効となるか判断しようがない)
という問題がありました。
このような問題を解消できるよう、解約料の説明等の努力義務が新設されました。

(1)解約料の説明努力義務
①契約解除時における損害賠償額の予定条項や違約金条項に基づいて、消費者
に賠償予定額又は違約金を請求する場合において、②消費者から説明を求めら
れたときは、③それらの額の算定根拠の概要を説明するよう努めなければなら
ない、とされました。
また、適格消費者団体が要請があった場合には、適格消費者団体に対しても
算定根拠を説明する努力義務も課せられました。

「算定根拠としてどの程度の説明が必要となるのか」という点は、今後の解説
発表や実務の蓄積を待つ必要がありますが、上記のような消費者側の立証負担
の軽減という趣旨からすると、①当該賠償予定額又は違約金額の計算式や算定
基準を説明するだけでは足りず、②当該事業者に生ずべき平均的な損害額の
計算式や算定基準をも開示したで、当該賠償予定額又は違約金額が平均的な
損害額を下回っていることまで説明する必要があると思われます。

(2)解除権行使のための情報提供の努力義務など
①消費者の求めに応じて、解除権を行使するための必要な情報を提供すること、
②定型約款の内容を消費者が容易に知ることができるようにするための措置
を講じていない場合に、消費者が定型約款の内容の表示を請求するために必要
な情報(権利の内容、請求方法、請求窓口等)を提供すること、
などが新設されました。

4.消費者裁判手続特例法の改正

上記特例法は、ざっくり言うと、「被害を受けた個々の消費者に代わって、
特定適格消費者団体が事業者に対して訴訟提起等をすることができる制度」で
あり、集団的な消費者被害の回復を実現できる制度として活用されております。

今回の改正により、上記制度がより使い勝手がよくなるよう、
①請求できる損害項目として、一定の慰謝料(財産的請求と併せて請求する
場合、故意の場合)を追加する、
②被告として、事業者以外の個人(悪徳商法に関与した監督者・被用者を想定)も追加する、
③事業者に対し、裁判手続の内容等を消費者へ個別通知するよう義務付ける、
④一段階目の訴訟手続における柔軟な早期和解を可能にする、
といった様々な改正がなされました。

※ポイントや具体的な改正内容は以下のPDFファイルを参照ください。

【PDFファイル】R4.10消費者契約法改正の概要

この記事を書いた人
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