2022年10月19日

令和4年6月1日施行の「改正公益通報者保護法」主要ポイント

今回は、令和4年6月1日に施行されました「改正公益通報者保護法」について、主要なポイントをご紹介させていただきます。

  • 改正公益通報者保護法のポイント
  1. 内部通報に適切に対応するために必要な体制を整備する義務

今回の改正により、事業者には、

① 公益通報対応業務従事者を定める義務(公益通報者保護法11条1項)

② 公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとる義務(同法11条2項)

の2つの義務が課されました。

※ただし、中小企業(従業員が300人以下)については現状、努力義務に止まっておりますので(同法11条3項)、今後、コンプライアンス順守の観点から焦らず体制を整備していっていただければ十分です。

上記①の「公益通報対応業務従事者」とは、公益通報を受け、社内調査を行い、是正措置をとる業務に従事する者をいいます。

上記②の「必要な体制の整備その他の必要な措置」とは、通報窓口の設置、組織長又は幹部等からの独立性の確保、適切な社内調査・是正措置の実施、通報を理由とした不利益取扱いの禁止、通報者に関する情報漏えいの防止、内部通報規程の整備・運用などが挙げられます(添付の指針の解説7ページ以下をご参照ください)。

特に重要な点は、具体的に事業者がどのような体制の整備や措置を取るかという点について、各事業者において、事業規模、組織形態、業態、法令違反行 為が発生する可能性の程度、ステークホルダーの多寡、労働者等及び役員や退職者の内部公益通報対応体制の活用状況、その時々における社会背景等の諸々の事情を踏まえて主体的に検討を行い実効的な体制を整備・運用していくことが求められているという点です(添付の指針の解説2~4ページをご参照ください)。

これは近年の金融分野における金融庁の監督指針とも同じ方向性であり、

× 監督官庁が細かく画一的なマニュアルや具体的な対応内容を定め、それを  順守しているかをチェックという流れ→監督官庁が決めた基準・ルールの順守にばかり目が行き、「仏作って魂入れず」という事態(制度や箱ばかり豪華になるが実効的に機能しないという事態)に陥りやすい

○ 各事業者の創意工夫により、自社に合った独自の体制整備・措置をとってもらうことで、実効的に機能する制度構築をしてもらう(それにより、法律の趣旨・目的が実効的に達成される)

という流れをくむものと言えます。

かかる流れ・方向性を意識して体制整備を進める必要がございます。

2.内部調査に従事する者の守秘義務

公益通報対応業務従事者(内部調査等に従事する者)又は過去に公益通報対応業務従事者であったものは、正当な理由なく「公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるもの」を漏えいしてはいけないと定められました(公益通報者保護法12条)。

この「正当な理由」とは、公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会 報告書によると、

  • ① 公益通報者本人の同意がある場合
  • ② 法令に基づく場合
  • ③ 調査等に必要である範囲の従事者間で情報共有する場合
  • ④ ハラスメントが公益通報に該当する場合等において、公益通報者が通報対象事実に関する被害者と同一人物である等のために、調査等を進める上で、公益通報者の特定を避けることが著しく困難である場合

と列挙されております。

また、「公益通報者を特定させる事項」とは、上記報告書によると、

  • ① 公益通報者の氏名
  • ② 公益通報者の社員番号

*性別等の一般的な属性であっても、当該属性と他の事項とを照合されることで、排他的に特定の人物が公益通報者であると判断できる場合は該当する

と列挙されております。

この守秘義務に違反した場合、刑事罰(30万円以下の罰金)の対象となりますので、十分ご注意いただく必要がございます(同法21条)。

3.行政機関等への通報の要件緩和

公益通報者保護法上、一定の要件が満たされる場合には、行政機関や報道機関等に公益通報をしたとしても、それを理由とした事業者の解雇は無効になるという規定が設けられておりましたが、この要件が緩和され、事業者の解雇が無効となるケース(行政機関や報道機関への公益通報が許容されるケース)が拡大されました(同法3条2号、3号)。

具体的には以下のとおりとなっております。

① 行政機関への通報の要件緩和(公益通報者保護法3条2号)

ア 通報対象事実が生じ、生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合

又は

イ 通報対象事実が生じ、生じようとしていると思料し、一定の公益通報対象事実等を記載した書面を提出する場合(●改正で新たに追加

② 報道機関等への通報の要件緩和(同法3条3号)

ア 通報対象事実が生じ、又は生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合

かつ

イ 以下のいずれかに該当する場合

(ア)公益通報をすれば、解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある

(イ)公益通報をすれば、通報対象事実に係る証拠が隠滅・偽造・変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある

(ウ)内部通報をすれば、企業が通報者についての情報を漏えいすると信ずるに足りる相当の理由がある(●改正で新たに追加

(エ)個人の生命・身体に対する危害、個人の財産に対する損害(回復できな い・著しく多数の個人における多額の損害で、通報対象事実を直接の原因とするもの)が発生し・発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある(●改正で内容が拡大

(オ)企業から正当な理由なく内部通報しないことを要求された

(カ)企業で書面によって内部通報したにもかかわらず、通報した日から20日を経過しても、企業が調査を行う旨を通知をせず、又は企業が正当な理由なく調査を行わない

 

4.保護対象者の拡大、保護される通報の範囲の拡大、保護内容の拡大

これまでは、役員及び退職者は保護対象者の範囲外でしたが、今回の改正により、①役員、②退職後1年以内の退職者も保護対象者に含まれることになりました。

また、保護される通報の範囲として、公益通報者保護法で定める法律に違反する犯罪行為(刑事罰の対象となる行為)に加えて、公益通報者保護法で定める法律に違反する過料の対象となる行為(行政罰の対象となる行為)も追加されました。

さらに、保護内容につきましても、従来の解雇無効や不利益取り扱いの禁止等に加えて、損害賠償責任の免除が追加されました。

すなわち、事業者は、公益通報によって損害を受けたことを理由として、公益通報者に対して損害賠償を請求することができない旨が規定されました。

 

主要な改正ポイントは以上のとおりとなります。

公益通報者保護制度というと、未だに、企業の内部不祥事等が外部に漏れやすくなる制度(会社にとってデメリットしかない制度)と誤解して拒否反応を占めす方も少なくないですが、適切な通報窓口を企業内部又は外部に設置していれば、企業内の不祥事や不正が外部に漏れる前に早期に内部で把握でき、企業内部での適切な対処及び自浄作用をすることができ、むしろ企業のレピュテーションリスクを防止することができるというメリットがある制度になります。

内部通報制度のメリット → 社外通報窓口/内部通報制度|磐城総合法律事務所 (iwakilaw.jp)

以上のようにメリットの大きい制度ですので、ぜひ内部通報窓口の構築をご検討ください。

この記事を書いた人
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